宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

植物から『銀河鉄道の夜』の謎を読み解く(総集編Ⅰ)-宗教と科学の一致を目指す-

Keywords: 文学と植物のかかわり,ほんたうの考え・うその考え,移住者,烏瓜のあかり,みんなのほんたうのさいはひ,もみや楢で包まれた街燈,理想の農業,先住民,進化論,神話,唯物史観

 

童話『銀河鉄道の夜』には30種程の植物(第1図)が登場するが,いずれも単なる風景描写の1つとして配置されているのではない。2011年から人間・植物関係学会雑誌に『銀河鉄道の夜』に登場する植物を,毎回1つあるいは数個ずつ取り上げ,これら植物が物語に登場する意味について解説してきた。そして19巻1号(石井,2019d)で最後の植物として「マツ」を取り上げることができた。

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 第1図.物語に登場する植物

そこで,本稿から次稿にわたって,これまでに解説してきた植物を第1,2,3表(本稿末に記載)の中にまとめて示すとともに,物語の全体的な意味(総集編Ⅰ),なぜリンゴの匂いのする汽車は宙に浮くのか(総集編Ⅱ),天気輪の柱や三角標とは何か(総集編Ⅲ),カムパネルラの恋(総集編Ⅳ)およびなぜカムパネルラはザネリを自分を犠牲にしてまで救ったのか(総集編Ⅴ)について総説する。総集編Ⅰ~Ⅴの中の難解な用語の詳細な解説については表などに記載されている拙稿を読んでいただければと思う。

物語に登場する人物は第2図に示す。

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第2図.物語に登場する人物

1.物語の主旨は「みんなのほんたうのさいはひ」を探すこと

童話『銀河鉄道の夜』(第四次稿;最終形)を手短に言えば,裏町の貧しい家庭の少年ジョバンニが銀河の祭りの晩に母に届いていない牛乳(milk)を牧場の牛乳屋に取りに行き,その途中で眠り込んで夢の中で銀河宇宙を旅するという物語である(第3図)。家から牧場の牛乳屋へ至る経路は第4図に示す。町を北から南へ流れる川に沿って鉄道が敷かれ、川面には銀河(milky way;乳の道)が投影されている。

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第3図.物語のあらすじ

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第4図.ジョバンニの歩いた道と植物

ジョバンニの父は,北の海で「ラッコ」,「アザラシ」,「サケ」などの漁をする「アイヌ(北方先住民)」がイメージされていて,密漁で牢獄にいるらしく不在である。ジョバンニは,父の代わりに新聞配達や活版所でアルバイトをして家計を助けているので他の級友達(町の子供)と遊ぶこともできず孤独である。ジョバンニは,アルバイト先で大人達から冷たい視線を浴びせられ,また母に届いていない牛乳を取りに行く途中で級友達からもいじめられ,逃げるようにして牧場近くの「黒い丘」へ向かうがそこで眠ってしまう。ジョバンニは,夢の中で銀河に沿って走る銀河鉄道の列車内で唯一の友人であるカムパネルラに出会い,一緒に「みんなのほんたうのさいはひ」を求めて白鳥座(北十字)から南十字星へと銀河宇宙を旅することになる。

 

第一次~第三次稿(初期形)では南十字星だけでなく「マゼランの星雲」(賢治は詩では「マヂェランの星雲」,童話では「マジェランの星雲」と記す)が重要な終着点として登場してくる。「マゼランの星雲」の<マゼラン;Ferdinand Magellan(1490~1521)>は,1519年に帆船で南欧スペインを出発しモルッカ諸島(香料諸島)への西回りでの航海ルート発見(結果的には世界一周航路発見)を目指したポルトガルの探検家であるが,1521年に志半ばで亡くなった。<マゼラン>は,北極星が見えないとき道標としてこの星雲を使ったという。

 

賢治は,この探検家の名のつく星雲に銀河鉄道で「みんなのほんたうのさいはひ」を探すという殉教的な決意を託したと言われている(原,1999)。第一次~第三次稿で,ジョバンニはサウザンクロスの停車場近くで「マゼランの星雲」を見つけ「あゝマジェランの星雲だ。さあもうきっと僕は僕のために,僕のお母さんのために,カムパネルラのためにみんなのためにほんたうのほんたうの幸福を探すぞ。」とつぶやく。「マゼランの星雲」の記載は第四次稿では削除されるが,代わりに後述するように銀河鉄道の車窓から<マゼラン>の航海と同じ地球を西進している風景が見えてくる。

 

ジョバンニは,夢の中で旅をしたカムパネルラが,級友を助けるために川に飛び込んで沈溺していたことを夢から覚めた後に知らされる。

2.童話の底辺を流れる思想

この童話は,母と子の物語,ジョバンニの成長物語あるいは壮大な銀河宇宙を旅する物語として読むことも可能だが,メインテーマは仏教思想とも関連する牛乳(milk)に関するものである(第5図)。仏教図像である曼荼羅(まんだら;サンスクリット語のMandalaを音写したもの)の「Manda」は,牛乳から作られる最高の飲み物である「醍醐」のことで「本質(ほんたうのこと)」を意味する。それゆえ,この物語には「ほんたうのこと(牛乳)」を探し(取り)に行くという意味が込められている(石井,2015c)。

 

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第5図.物語の基本構造

ジョバンニとカムパネルラが白鳥の停車場近くのプリオシン海岸で「くるみの実」の化石を発見するが,これも同じことを示している。この「くるみの実」の逸話は,賢治らが「イギリス海岸」と命名した,猿ヶ石川が北上川にそそぐ合流地点(花巻郊外)近くの泥岩層の中から絶滅した「オオバタグルミ」(Juglans cinerea var. megacinerea Miki. )の化石を見つけたという実体験に基づいている(石井,2015c)。現存する「バタグルミ」(Juglans cinerea L.)の食用部(種子)はバター味(Buttery flavor)がする。賢治は「くるみ林」を法華経思想の比喩として使うが,童話の中の地層にある「オオバタクルミ」の実は,法華経思想の結実したもので「ほんたうのこと」であり,またバターの味がするものなのかもしれない。 

 

この童話には「法華経」に記載されている様々な方便や逸話が,それとは分からない様に物語の中に組み込まれている。例えば,化城宝処(石井,2019d),常不軽菩薩(石井,2015b),三車火宅(石井,2013c),五千起去(石井,2016c)などがあり,法華経の教えを説く物語にもなっている。

 

すなわち,この童話は,町の人や同級生から差別され,いじめられている孤独な少年が友人と一緒に法華経思想を基に「みんなのほんたうのさいはひ」を探し求めて銀河(天上の世界)を旅するというファンタジーな物語であると言うことができる。そして,「みんなのほんたうのさいはひ」を探す「道標」として「天気輪の柱」や「三角標」が登場する。

 

3.「みんな」とは

 第四次稿で天上の世界(臨死状態も含めて死後の世界)を走る銀河鉄道の列車は,列車の車窓から見える景観から推測すると,探検家の<マゼラン>の航海のように地球を南欧(例えばイタリア・ローマ;緯度41°90′)からイギリスのランカシャーやタイタニック号が沈没したニューファンドランド島沖を経て,北米大陸にある大都会ニューヨーク(あるいはシカゴ;北緯41°51′)からコロラド高原(北緯37°~41°)へと西進している(第6図)。

 

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第6図.銀河鉄道の汽車の進路図

しかし,注意深く読み込むと「東北」の小岩井農場がある盛岡(北緯39°70′)辺りから花巻(イギリス海岸)を経て種山ヶ原(北緯39°12′;コロラド高原とイメージが重なる)方面へ向けて,北上川と平行して走る東北本線に乗って南下するような景観も二重に重なるような形で見えてくる。北上川には「銀河」が川面に映っている(石井,2012b)。

 

「みんなのほんたうのさいはひ」の「みんな」とは,銀河鉄道の列車が地球を西進するということで世界中の人々にまで拡大できるが,実際は「東北」の大地に住む人々をイメージしていて,地上の世界で登場するジョバンニの家族を含む貧しい狩猟民や農民などの人々(「先住民」)と,カムパネルラなどの経済的に豊かな町の人々(「移住者」)のことを指しているように思える。

 

物語の背景にイーハトーブ(岩手県)に住む「蝦夷(エミシ)」と呼ばれた「先住民(狩猟民)」の末裔と「移住者」の末裔達の対立があり,これが物語を書く動機になっている(石井,2018a)。賢治が生きた時代には「蝦夷(エミシ)」は「アイヌ」と同一視されていた。そこで,物語には「アイヌ」をイメージできる狩猟民が登場する。

 

賢治は,イーハトーブに住む「先住民」(エミシやアイヌ)と「移住者」の末裔達が共に「しあわせ」に暮らせるようになるには,物語の第三次稿でセロの声のような大人(ブルカニロ博士)が「信仰も化学も同じようになる」と言ったように「先住民」が生活の中心に置いた宗教的世界観と「移住者」がもたらした近代科学を基にした合理主義的な世界観を一致させる必要があり(宗教と科学の一致),それを実現させるには「ほんとうの考え」と「うその考え」を分けなければならないと考えている。

 

4.「みんなのほんたうのさいはひ」は「ほんたうの考え」と「うその考え」を分けて宗教と科学を同じにさせることで見つかるし,また成し遂げられる

1)唯物史観は「ほんたうの考え」か

科学を信じる者の多くは,客観的(合理的)に解釈できる世界が「ほんたう」であり,宗教家やアイヌなどの先住民達の言う「死後の世界」や「神話」に登場する「神(カムイ)」はその存在を科学的に証明できないもの(うそ)として否定してしまいがちである。

 

賢治が生きた時代には西洋の「近代科学技術」がもたらした物質文明は,例えば宗教を重要視しないドイツのマルクス(Karl Marx;1818~1883)の唯物史観からすれば歴史的必然的な到達点(「ほんたう」)のように見えた。唯物史観とは,世界は,物質の生産力と生産関係によって原始共産制→古代奴隷制→封建社会を経て資本主義社会さらには共産主義社会へと発展・進歩するとした考え方であり,ダーウイン(Charles Robert Darwin;1808~1882)の環境に適した有利な形質を持ったものが生き残れるという進化論に影響を受けて作られたものである。

 

賢治は,マルクスの思想を熱心に学んだが,賛同しなかったとされる。多分,マルクスの思想の中に宗教的な要素を見出すことができなかったからと思われる。すなわち信仰を重視し原始共産制に近い生活をしていたかつての「アイヌ」は,この唯物史観からすれば「生産性」の低さから発展・進化する社会に乗り遅れた人々であるとみなされる。

 

しかし,客観性を主張する近代科学がもたらした物質文明が「ほんたう」に人々を「さいはひ」にしているのだろうかと言えば疑問である。科学技術による「近代化」は,有り余るほどの「物質的な豊かさ」をもたらしたが,賢治が生きた時代でも環境破壊(公害)や精神崩壊などの様々な弊害を生み出し始めていた。そればかりではなく,その後人類は近代科学によって巨大なエネルギーを生み出す「原子力」を獲得することになるが,我が国は2発の原子爆弾による被爆(1945.8.6;1945.8.9)と東日本大震災(2011.3.11)における原子力発電所事故という最悪な事態を経験することとなった。

 

物質文明は,恐竜が大きくなることが必ずしも生存に適さないように,人々に必ずしも「さいはひ」をもたらすものではないのなら,その「豊かさ」も「進歩性」も科学を装った「偽物」と言わざるを得ない。

 

2)神々と共に生きるアイヌ

一方,明治以前の「アイヌ」のような先住民達は,「死後の世界」の存在を信じ,種々の動物・植物を「神(カムイ)」として敬う信仰を中心とし,物を獲り過ぎない工夫をした生活を送り,それが物質的に豊かではなかったかもしれないが精神的な「豊かさ」は得ていたと思われる。

 

実際に賢治は,縄文人の末裔とされる「アイヌ」の自然信仰からなる世界観が「豊かさ」をもたらすと信じ,『農民芸術概論綱要』では「曾てわれらの師父たちは乏しいながら可成り楽しく生きてゐた/そこには芸術も宗教もあった/宗教は疲れて近代科学に置換され然も科学は冷たく暗い」(下線部は著者(石井)によるい)と述べた。人々を「さいはひ」に導くものとして,何が「ほんたう」で何が「うそ」なのか分からない時代に突入してしまったように思える。「アイヌ」の詩的で神話的な世界観が「ほんたう」で,物質文明をもたらす客観的合理的な世界観が「偽物」なのかもしれない。

 

しかし,宗教的な世界観だけでは人々に「さいはひ」をもたらさないことも歴史は証明した。そこで,賢治は既存の宗教(「アイヌ」の自然信仰を含む)も科学もそれぞれ単独では「ほんたうのさいはひ」をもたらさないとして,宗教と科学の使い方も含め,それぞれの「ほんたう」と「うそ」を区別し宗教と科学を「一致」あるいは「同じに」させようとしたと思われる。「宗教と科学を同じにする」ということは,必ずしも「宗教と科学を一緒にさせる」ということではではない。別の言葉で言えば,「ほんたうのさいはひ」は,単純に「物質的な豊かさ」と「精神的な豊かさ」を兼ね備えたものであるとは必ずしも言えないということである。

 

3)「ほんたうの考え」と「うその考え」を分ける実験装置

例えば,将来「ほんたうの考え」と「うその考え」を分ける実験装置が考案されたとして,この装置を使って近代科学を象徴する原子力エネルギーの利用を考えたとする。原子力エネルギーの利用が「ほんたう」に人々の「さいはひ」に役にたっているのかどうかをこの実験装置に判断させて,それが全てではなく何割が「ほんたう」で何割が「うそ」というのもあるとは思われるが,もしも「ほんたう」の部分があればその部分の原子力エネルギーの利用に力を入れるが,「うそ」の部分があるとすれば,その利用を禁止にするのがよいと思われる。

 

また,「アイヌ」は粟などの穀物を収穫時に根刈りすれば植物が再生されなくなるという宗教上の理由によって「穂摘み具」の貝で穂を収穫するが,この考え方も同様に判断して「ほんたう」に人々を「さいはひ」にするのであれば,たとえ非効率で非科学的に思えようが実行すればよいと思われる。このように「死後の世界」の存在の有無も含めて「ほんたう」と「うそ」を分けてしまえば宗教でもない科学でもない,宗教と科学を超越した新しい思想(あるいは哲学)が創出される。

 

しかしながら,賢治にとって「ほんたう」と「うそ」を見分ける方法(あるいは実験装置)は見つけることはできなかった。また,見つけることができなかったから,「ほんたうのさいはひ」が何であるかも示せなかった。しかし,「ほんたう」と「うそ」が見分けられれば宗教と科学が一致(あるいは超越)し,「みんなのほんたうのさいはひ」が何であるのか分かるということは信じたようである。それはひいてはイーハトーブに住む「先住民」と「移住者」の間の「差別」,「疑い」,「反感」が生じない「共生・共存」に繋がるものでもあった。

 

5.自然も社会も変えられる

賢治は,農学校を退職した頃「生徒諸君に寄せる」(1927)という詩で「新しい時代のコペルニクスよ/余りに重苦しい重力の法則から/この銀河系統を解き放て」,「新しい時代のダーウヰンよ/更に東洋風静観のキャレンヂャーに載って/銀河系空間の外にも至って/更にも透明に深く正しい地史と/増訂された生物学をわれらに示せ」,また「新たな時代のマルクスよ/これらの盲目な衝動から動く世界を/素晴らしく美しい構成に変へよ」と述べている。賢治は,少なくとも今ある自然や社会が人間にとって「ほんたう」のあるべき姿とは思っていない。自然や歴史は,宇宙不変の「法則」や「盲目な衝動」によって動かされるものではなく,知恵ある人間によっても変えることができると信じている。

 

賢治がこの物語を作った動機は,賢治自身の恋愛体験によるものである可能性が大きい。「移住者」の末裔である賢治(宮沢家は京都出身の地域財閥で大地主)は,「東北」の「先住民」の末裔と思われる恋人と相思相愛の恋をしたが1年足らずで破局したという。その破局の原因の1つとして前述したように「東北」における「先住民」と「移住者」の歴史的対立があったと考えられる(石井,2018a)。

 

恋人は破局後に渡米(シカゴ)し3年後に亡くなっている。だから,『銀河鉄道の夜』の天上世界は主として北米大陸が舞台になっている。破局の原因はタイタニック号沈没がモデルとなった難破船や橄欖(かんらん)の森の逸話の中で語られる(石井,2018b,2018c)。賢治にとって,「先住民」と「移住者」の「共生・共存」は,恋愛後の人生において最も重要な課題だったように思われる(石井,2018a,2018b)。そして,それは自然や社会の仕組みを変えることによって達成できると信じた。

 

6.「烏瓜のあかり」と「もみや楢で包まれた街燈」は宗教と科学の「一致」を象徴する

1)物語を代表する植物としての烏瓜

童話『銀河鉄道の夜』を象徴する最も重要な植物は,「烏瓜(カラスウリ)」(ウリ科;Trichosanthes cucumeroides Maxim.)である。物語では「銀河の祭り」で使う「烏瓜のあかり」として登場してくる。南欧が地上世界の舞台となっているが,賢治が中国や日本で見られる植物を採用したのは,「銀河の祭り(ケンタウル祭)」が日本の「七夕祭」や仏教行事の「盂蘭盆会(うらぼんえ)」とイタリアの古い都市国家フィレンツェなど,欧州で広く行われてきた守護神・聖ヨハネ(洗礼者)を祭る「聖ジョバンニの祭(Festa di San Giovanni)」という「火祭り」を融合したものだからであろう。

 

「カラスウリ」が物語を象徴する理由としては3つある。1つ目は,花が日没後に開花することである。

 

2つ目は繁殖方法にある。「カラスウリ」は雌雄異株の多年草で通常種子や塊根(芋)によって増えるが,別の増え方として地上から巻きひげを使い他の樹木などに絡みつき,伸びた蔓が秋になると方向を変えて地面に向かって伸び,地表に触れるとそこから発根し,新しい塊根(栄養繁殖)を作ることができる(石井,2019d)。童話『銀河鉄道の夜』で,主人公のジョバンニが「銀河の祭り」の晩に「黒い丘」から夢の中で「天上」に登り,再び地上世界へ戻って来る話を彷彿させる。

 

3つ目は,「カラスウリ」の果実の果皮の表面にできる模様である。果実の表面は,赤く熟す前はスイカのように果梗から果頂部にかけて緑の濃淡でできた「帯」が複数連なった「縞模様」をもつ。

 

2)縞模様は「一致」の象徴

 賢治は,宗教と科学を一致させるには「ほんたう」と「うそ」を見分けることが必要と考えたが,この方法は分からなかったようである。しかし,「ほんたう」と「うそ」を見分けるには「縞模様」が重要な鍵になるということはしきりに物語で言っているように思える。

 

賢治は,第一次稿を執筆しているとき,『アイヌ神謡集』の神謡「梟の神の自ら歌った謡“銀の滴降る降るまわりに”」に登場する神(カムイ)である「シマフクロウ(島梟)」の羽の「縞模様」に注目したように思える(石井,2018a)。「シマフクロウ」(第7図)の「シマ」は「縞」ではなく「島」に由来すると言われているが,アイヌコタンに住む「貧しい人」と「豊かな人」が共に争いもなく助け合って暮らせるように見守ってくれる重要な神である。

 

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第7図.シマフクロウ(苫小牧市美術博物館内で撮影)

第四次稿では,「縞模様」を浮き出させる「烏瓜のあかり」をこの物語の象徴的植物として登場させ,地上世界の風景描写の中に「烏瓜のあかり」(第8図A)のように「縞模様」を形成するものを沢山登場させている。例えば「蛍の光で透かし出された葉の葉脈」(第8図B),「星空に浮かぶポプラ」,「もみや楢で包まれた街燈」(第8図C)あるいは「電気会社の前の6本のプラタヌス」(第8図D)などである。

 

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第8図.物語に登場する縞模様.Aは烏瓜のあかり,Bは蛍の光で透かしだされた葉の葉脈,Cはもみや楢で包まれた街燈,Dは電気会社の前の6本のプラタヌス,Eは黄金と紅で彩られたリンゴ.

後者の2つは,近代科学を象徴する電気を使った「街燈」や「電気会社」を聖なる植物である「もみ(ヨーロッパモミ)」(マツ科;Abies alba Mill.),「楢(オーク)」(ブナ科:Quercus robur L.),「プラタナス」(スズカケノキ科;Platanus orientalis L.)で,木々が光で透かし出されて「縞模様」になるように配置されている。

 

『旧約聖書』の「創世記」に,木の枝を「縞模様」になるようにして剥いてから家畜に見せると家畜たちが繁殖行動にでるという逸話が語られている。現実世界でも,魚類や両生類,爬虫類などの一部の動物種では繁殖期に特別の体色や「斑紋」が現れる。サケの体色は銀白色だが,繁殖期になると雌雄ともに全体が黒ずんで赤い「縞模様」が入る。園芸用語で「枝変わり」というのがあるが,同一果実内に遺伝情報の異なる組織が混入すると,その異なる遺伝情報をもつ組織が果実表面に「帯状」あるいは「縞状」に分布する「区分キメラ」になる。多分,賢治は「縞模様」が「一致」(合体)に関係するなら,宗教と科学の「一致」にも「縞模様」が関係すると思っているのかもしれない(石井,2017a)。

 

「縞模様」は賢治の他の作品(童話『ポラーノの広場』,詩「薤露青(かいろせい)」など)にも登場する。例えば,詩集『春と修羅』の「薤露青」の最後を締めくくる4行の「かなしさは空明から降り/黒い鳥の鋭く過ぎるころ/秋の鮎(あゆ)のさびの模様が/そらに白く数条わたる」の中に記載されている。この詩の「秋の鮎のさびの模様」がアユの繁殖期の雄の体表にでる細長い帯状の「赤茶色」(さび色)の「婚姻色」(錆鮎という)のことである。この「婚姻色」は帯状で「縞模様」にはならないが,詩の中では同じような帯状の「白い雲」が数条渡ると言って「縞模様」を形成させて詩を結んでいる。

 

ここで重要なのは,「縞模様」が性的な意味合いが強い「赤」から聖なる「白」に変わっていることである。この詩は死んだ妹への挽歌であるとともに,相思相愛の恋人との離別歌でもある。妹個人への恋愛感情にも近い思いあるいは一緒になりたかった恋人への強い思いを大乗仏教の理念(苦の中にある全ての生き物を救う)に昇華させようと歌ったものである(石井,2017a)。

 

3)ケンタウル,露をふらせ

銀河の祭りで子供達が叫ぶ「ケンタウル,露をふらせ」は,キメラのケンタウルスよ「ほんたうの考え」と「うその考え」を分けて宗教と科学を一致させる方法を示せという賢治の叫びでもあり,その叫びは「灯台看守」の持つ「リンゴ」(第8図E)となって現世に戻るジョバンニのポケットに大切に収められた(石井,2017a)。「ほんたう」と「うそ」を見分ける方法の発見は,現在生きている我々に託されたのと同じである。 

 

「ケンタウル,露をふらせ」の「露」は「真実(ほんたうのこと)」という意味でもある。南十字の停車場近くの「くるみ林」に流れてくる「銀いろの霧」(石井,2014a),童話『十力の金剛石』で出てくる「露」(石井,2017b),詩「薤露青」前半部の「岸のまっくろなくるみばやしのなかでは/いま膨大なわがちがたい夜の呼吸から/銀の分子が析出される」の「銀の分子」(石井,2014a)も同じ「真実」という意味で使われていると思われる。また『アイヌ神謡集』の「梟の神の自ら歌った謡“銀の滴降る降るまわりに”」の「銀の滴」も「神(カムイ)」の言葉ということで「ほんたうのこと」という意味で使われていると思われる。

 

詩「薤露青」に出てくる「くるみ林」は法華経思想の比喩であるということは報告していた(石井,2014a)。それゆえ,詩「薤露青」の「くるみ林」が出てくる前半部は宗教の荘厳さが,後半部は前述したように人々の「信仰」の対象が科学へ移行しているさまが歌われている。

 

7.賢治の考える理想の農業

1)農業はなくなる

賢治は童話『銀河鉄道の夜』(第四次稿)の中で,灯台看守がジョバンニ達に「あなたがたのいらっしゃる方なら農業はもうありません」と言っている。ジョバンニの乗る銀河鉄道の列車は,前述したように地球を西進しているので,この「あなたがたのいらっしゃる方」を緯度的に日本と仮定して, 日本の農業の現状と未来について考えてみたい。

 

現在, 日本の農業は農業技術の著しい進歩にも関わらず, カロリーベースでの食料自給率は,農林省のデータ(石井,2012b;農林水産省,2019,2020)によれば1961年に78%であったものが年々減少し続け, 2018年には37%まで落ち込んでいる。穀物自給率に至っては28%(2018)であり, 173の国・地域中124番目である。農業就業人口も昭和後期までには600万人以上いたものが年々減少し続け2018年には175万人まで減少した。平均年齢も66.8歳と高齢化している。まさに, 日本の農業は数字上では確実に衰退の一途を辿っている。しかし, 賢治が童話『銀河鉄道の夜』の中で単に日本の農業の衰退を予想しただけとは思えない。

 

農業の基本は農地での農作物の栽培と牧草地での牧畜である。「日本の農業はもうありません」の「ありません」には2つの意味が込められていると思う。農耕に限定すれば, 1つは「農作物の栽培がなくなる」であり, もう1つは, 「農地や自然気候を使った農作物の栽培がなくなる」である。

 

前者は, 極論でいえば我が国(=先進諸国)が農作物の生産そのものを中止していくことであり, ほぼ全ての農産物は輸入に依存する。ありえない話ではない。世界が欧州連合(EU)のように国家を開き一つになっていけば, それぞれの地域の特徴が生かされ, 農業に特化する国, 製造業に特化する国が誕生し相互依存の形で発展していく。賢治が羅須地人協会で講義用に執筆した『農民芸術概論綱要』の序論には「新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある」と記載されている。

 

後者は農地を使った農作物の生産はなくなっていくが農地を使わずに農作物の栽培は続けることを意味する。農業は伝統的な分類では林業や漁業と同じく第一次産業に分類される。自然を対象とするため, 日照, 気温そして気象に左右されやすい。賢治の存命中に東北の農民はヤマセの影響を受け冷害(=凶作)に悩まされていた。これは農地(土地)を耕して農産物を生産する農業の宿命でもある。

 

農地(土地)を使わない農作物の栽培例として「養液栽培」やそれを応用した「植物工場」がある。「植物工場」とは, 内部環境をコントロールした閉鎖型または半閉鎖型な空間で植物を計画的に生産するシステムである。閉鎖型の植物工場では, 農産物は自然現象に左右されないので安定して供給できる。「閉鎖型植物生産システム」とは, 人工光源, 各種空調設備, 養液培養などを使うもので, 現在野菜, 薬用植物などの栽培に利用されている。これは「一次産業」である農業を製造工業化したものであるが, 単なる「二次産業」ではなく高度・複合化された「高次産業」であると思われる(石井,2012b)。

 

賢治が燈台看守に「あなたがたのいらっしゃる方なら農業はもうありません」と言わせたことに対して2つの解釈の仕方を紹介したが, 前者は賢治を「宗教者」,後者は「科学者」と見做しての解釈である。著者は, 後者を強く支持する。「農作物の栽培がなくなる」ではなく, 農地を使わない大規模でハイテクな農作物の生産が「あなたがたのいらっしゃる方なら行われている」と読み変えたい。実際, 賢治は前述したように「自然も社会も変えられる」と信じていた。

 

2)農業において具現化された宗教と科学の一致

童話『グスコーブドリの伝記』(1931)の中に, 冷害に苦しむ農民を救済するため,「潮汐発電所」から「鉄の櫓」(=「送電鉄塔」)を介して得られた「電力」を使い黒ダイヤや石炭を連想させるカルボナード火山島を人工的に爆発させて,炭酸ガスを噴かせ短期的と思われるが地球の温暖化を計るという話が記載されている。気層の中の炭酸ガスを増やし,下層の空気や地表からの熱の放散を防ぐというものである。

 

この物語で,主人公ブドリ(樵の息子)は最終工程の仕事をするため自発的に火山島に残り,爆発する火山島と運命を共にする(宗教的な焼身自己犠牲)。これは地球全体を「植物工場」にする試みでもある。そして,この試みを遂行するには人のために役立ちたいという自己犠牲的な宗教的観念が必要とされている。地球温暖化によって冷害に苦しむ農民に「ほんたうのさいはひ」がもたらされたかどうかは地球全体で考えないと判断できないが,理念としての宗教と科学の合致が表現されている(炭酸ガス排出による長期的な地球温暖化が現在危機的な状況をもたらそうとしていることは周知の事実である)。また,この物語には「潮汐発電」以外にも飛行船を使っての肥料配布などの当時としては高度な科学技術が紹介されている。

 

賢治は,「科学者」としての知識と天性の直観力および「宗教者」としての利他心を駆使して地球規模(あるいは宇宙規模)で農業や工業を超越した高度な農産物生産システムを考えていたように思う(石井,2012b)。(続く)

第1表.銀河鉄道の夜に登場する植物と法華経および他の文学作品との関係 (1)

登場する植物 植物の推定 物語の展開と植物との関連 出典 著者文献
    南欧が舞台,「午後の授業から物語が始まる」     2016a
    (登場人物たちがお互いに他者の心を読み取る) A 「化城喩品第七」(六神通の一つ) 2013b
ヤマザクラ 「少年らが烏瓜ながしに行くために桜の木に集合」   2017a
烏瓜(のあかり) カラスウリ 「物語を象徴する植物として登場;本文参照」   2019d
いちゐとひのき セイヨウイチイ 「銀河の祭りであるケンタウル祭に使う」   2017a
  ヒノキ (セイヨウイチイとヒノキは西洋と東洋の関係)   2017a
    (祭りは聖ジョバンニ祭と日本の祭りを融合;キメラ)   2017a
粟(粒ぐらゐの活字) アワ 「よう虫めがね君,お早う」(活版所での会話;蔑視の意味)(粟粒は小さいものの喩えだが,北方先住民の栽培穀物)   2019b
    (ジョバンニは父不在で病気の母を支えるため活字拾いのアルバイトをしている)  
トマト   「ジョバンニが家で一人で食事をする」   2012b
    (トマトは南欧イタリアの主要食材)   2012b
ケールと               アスパラガス   「家の前の空き箱に植えられている」(仏教宗派を統合する五輪塔の暗喩)   2016a
    (物語の進行に伴い少しずつ五輪塔の形になっていく)  
アスパラガスの葉   「青い三角形の葉で飾られた丸く黒い四角い台座をもつ星座早見」 2013e
    (星座早見は〇,△,□,青,黒で出来ていて五輪塔のよう) 2016a
    「町ではケンタウルス,露をふらせと子どもらが叫ぶ」    
    (ケンタウルスは神話に登場する半人半獣のキメラ)    
ヒノキ 「ジョバンニが檜の坂を通って母に届いていない牛乳を取りに行く」 2013c
ひば ネズコ 「街燈の下でジョバンニの影法師がくるっと回る」   2013c
    「ひばのある家のザネリのいじめ」(ヒノキとネズコは陽樹<光>と陰樹<影>の関係)    
    「町は銀河の祭りで飾られ人魚(キメラ)の都のよう」    
もみや楢(の枝) ヨーロッパモミ 「もみや楢の枝で包まれた街燈」   2017a
  オーク (モミやオークは神聖な植物,電気は近代科学の象徴) 2017a
    (宗教と科学の一致をイメージしたもの;キメラ)   2017a
プラタヌス プラタナス 「電気会社前の6本のプラタナス」 C旧約「創世記」30章 2017a
    (宗教と科学の一致をイメージしたもの) (家畜を繁殖させる植物として登場) 2017a
ポプラ イタリアヤマナラシ 「星空に浮遊するポプラの木々」 C旧約「創世記」30章 2017a
    (物語が地上から天上へ移行することの暗喩)   2017a
    (さらにいじめを受け逃げるようにして十字になった町かどを通って黒い丘へ)  
    <黒い丘> <A 霊鷲山>  
烏瓜(のあかり) カラスウリ 「烏瓜は物語を象徴する植物」   2019d
松や楢 ヨーロッパクロマツ 「松や楢の林を上る」(マツは境界木)   2019d
  オーク 「丘から五輪塔をイメージできる天気輪の柱が見える」 2016a
    (柱は五輪である地輪(地上)・水風輪(積乱雲)・火輪(雷;△)・空輪(空)の中の積乱雲)  
    (オークが教会の廻廊や尖塔を連想させる) D 「北いっぱいの星空に」下書稿 2016a
      (楢のゴシック廻廊,楢の尖塔) 2016a
    「稲光で柱がゴシック教会の尖塔(三角標)に変貌」 A 「見宝塔品第十一」の多宝塔  
つりがねさう ツリガネニンジン (花と葉の付き方が十字対生)   2011
    (物語でジョバンニは十字の標を目印に天上へ登っていく) 2011
野ぎく ヤグルマギク (学名がケンタウルスを連想させるCentaurea cyanus L.) 2014a
苹果 リンゴ 「丘から列車が小さく見える」   2016b
    「黒い丘は銀河ステーションに変貌」(ジョバンニは入眠しほんとうの幸せを求めて旅にでる)  

ジョバンニが地上から天上に登るまでの植物が物語に登場する順番で記載されている.出典:A『法華経』,B 『源氏物語』,C『聖書』,D 「他の賢治作品」,E「その他」.

 

第2表.銀河鉄道の夜に登場する植物と法華経および他の文学作品との関係 (2)

登場する植物 植物の推定 物語の展開と植物との関連 出典y 著者文献
    <黒い丘> <A 霊鷲山>  
    「黒い丘で目が覚める」 A 「嘱累品第二十二」 2011
松(の林) ヨーロッパクロマツ 「松の林を下る」(境界木)   2019d
烏瓜(のあかり) カラスウリ 「集魚灯のアセチレンランプがせわしく行き交う」    
    「カンパネルラの水死を知る」 A 「薬王菩薩本事品第二十三」  
    (アセチレンはカーバイドと水が反応してできる)    
    「牛乳を持って母のもとへ帰る」    

zジョバンニが天上から地上に戻ったあとの植物が物語に登場する順番で記載されている.y出典:A『法華経』.

 

第3表.銀河鉄道の夜に登場する植物と法華経および他の文学作品との関係 (3)

登場する植物 植物の推定 物語の展開と植物との関連 出典y 著者文献
    乳の道;Milky Way=瀕死あるいは死後の世界 <A 虚空>  
    「銀河鉄道の列車の客室でカンパネルラに出会う」    
    白鳥座(北十字)辺りで沢山の美しい三角標が出現    
    (三角標はゴシック教会の尖塔) A 「化城喩品第七」 2014b
    「金の円光を頂く白い十字架が永久に立っている」   2016c
すゝき,芝 ススキ,シバ 「きつね座辺りで鳥捕りが登場」 A 「常不軽菩薩品第二十」 2014b
    (鳥捕りとススキは厄介者として登場)   2015b
苹果(のあかし) リンゴ 「強い信仰心のあかし」(信仰が生活の中心)   2016c
りんだう(の花) リンドウ 「母への思い」 B 39帖「夕霧」 2018c
銀杏(の木) イチョウ 「ジョバンニとカムパネルラ」の関係   2019a
    (父親を異にする兄弟) D『いてふの実』『双子の星』 2013b
くるみ(の化石) オオバタグルミ 「プリオシン海岸」 A 「如来寿量品十六」(命は不滅) 2015c
    (バタグルミはバター<乳>の味がする) D 童話『イギリス海岸』 2015c
かはらははこぐさ カワラハハコ (カワラハハコはドライフラワーに使用される) E 違星北斗 『コタン』 2019c
    「押し葉に使う鶴(=true)と鷺(=詐欺)が登場」   2012a
    (ほんとうとうその見分け方が議論される)    
桔梗(いろの空) キキョウ (桔梗いろの空はキリスト教世界の暗喩)   2015d
唐草(の模様)   「どこでも勝手に歩ける通行券」 A 「化城喩品第七」(六神通の一つ) 2013b
    (白鳥区が終わり鷲座近くで鳥捕りが下車)    
    (科学の力で水の速さを測定するアルビレオの観測所を通過)  
苹果や野茨(の匂い) リンゴ,ラズベリー 「難破船の乗客(キリスト教徒)の登場を暗示」   2013a
    (赤いジャケツの子と眼の茶色の子が登場)    
ばら(の匂い) ラズベリー 「ばらの実が光を反射させて旗に赤い点々を打つ」   2017b
    (進路に危険物を知らせる国際信号旗の模様) D 童話『十力の金剛石』 2017b
    (危険物とは宗教を威嚇する物質的豊かさをもたらす近代科学)  
けやき ケヤキ 「青年の姿勢の形容」   2018b
にはとこ(のやぶ) ニワトコ 「帰りたいと駄々をこねる難破船の子供」 A 「譬喩品第三」(三車家宅) 2013c
(金色と紅の)苹果 リンゴ 「燈台守が金色と紅で彩られた苹果を配る」   2017a
コメ 「農業の理想が語られる」   2012b
りんご リンゴ 「難破船の子供の寂しさ」   2016b
    (ジョバンニや賢治の寂しさに繋がる)   2016b
橄欖(の森) スギなどの在来種 「難破船の青年の苦悩」 C新約 「マルコの福音書」14章32 2014c
  (エミシの森) (賢治の恋の破局の苦悩でもある)   2018b
    (”のぼる道は十字架に”という句のある<主よみもとに>が歌われる)  
たうもろこし(の木) トウモロコシ? 「新世界交響曲(黒人霊歌と関係)が流れる」   2012b
(絹で包んだ)苹果 リンゴ 「高原でインディアンが登場」(キリスト教徒の罪) D 詩「原体剣舞連」(蝦夷が登場) 2016d
    「列車は高原からどんどん下っていく(逆走不可)」    
河原なでしこの花 カワラナデシコ 「ジョバンニの嫉妬」(聖と俗の境に咲く花) B 54帖 「夢浮橋」 2019d
    「空の工兵大隊の架橋練習」 D 童話『月夜のでんしんばしら』 2017c
楊(の木) アメリカヤマナラシ (マッチの軸木として使用され焼身自己犠牲の象徴)   2011
  (アスペン) 「蝎の火が桔梗色の空を焦がす」所で登場 A 「薬王菩薩本事品第二十三」 2014a
  [最大の山場] (蝎の火はカーバイド工場の炎に由来) D 詩「発電所」「カーバイト倉庫」 2014a
    (近代科学がキリスト教を威嚇しているの意味) D 『農民芸術概論』,「空明と傷痍」 2015d
      (宗教は疲れ近代科学に置換され  
      然も科学は冷たく暗い)  
    「三角標は送電鉄塔や工場の煙突に変貌」 A 「化城喩品第七」 2015a,d
    蝎の火は法華経の炎でもあるので炎は美しく燃え上がる(宗教と科学の一致)  
      E 知里幸恵『アイヌ神謡集』 2018a
唐檜,もみ ドイツトウヒ,モミ 「ケンタウルス,露をふらせ」 A 「薬草喩品第五」(雲雨の比喩) 2014a
    (キメラのケンタウルスよ真実を明らかにせよの意味)   2017a
苹果(の肉) リンゴ 「苹果の肉のような雲の環がある十字架が立つ」    
    (十字架は眩いばかりの宝石で散りばめられている)   2016c
    「そんな神さまうその神さまだい」(神さま論争) E 違星北斗『コタン』 2019c
    (南十字星辺りでキリスト教徒らが下車) A 「方便品第二」(五千起去) 2016c
瓜(に飛びついた) ウリ (キリスト教徒らの喜びの表現) C 文語詩「母」 2019c
くるみ(の木) クルミ 「くるみの木には黄金の円光をもつ電気栗鼠がいる」   2014a
    (くるみ林は法華経思想の暗喩)    
赤い腕木の電信柱 スギ,ケヤキ 「眠りから覚めかける場面で登場」 D 童話『月夜のでんしんばしら』 2017c
  宗教と科学を一致させ,みんなをほんとうの幸いに導けるなら百ぺん焼いてもかまわないと決意する  

z天上(夢の中)の植物が物語に登場する順番で記載されている.y出典:A『法華経』,B 『源氏物語』,C『聖書』,D 「他の賢治作品」,E「その他」.xウリは種を確定するのは難しいのでウリ科の総称で記載した.

 

引用文献

原 子郎.1999.新宮澤賢治語彙辞典.東京書籍.東京.

石井竹夫.2011.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する植物.人植関係学誌.11(1):21-24.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/05/082232

石井竹夫.2012a.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する鳥の押し葉.人植関係学誌.11(2):19-22.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/05/102845

石井竹夫.2012b.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する農業(前編・後編).人植関係学誌.12(1):15-24https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/06/062838 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/06/065025

石井竹夫.2013a.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する幻の匂い(前編・後編).人植関係学誌.12(2):21-23 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/02/094155 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/02/095050

石井竹夫.2013b.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するイチョウと二人の男の子.人植関係学誌.12(2):29-32. https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/03/145440

石井竹夫.2013c.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する「にはとこのやぶ」と駄々っ子.人植関係学誌.13(1):15-18.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/03/164505

石井竹夫.2013d.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する「りんだうの花」と悲しい思い.人植関係学誌.13(1):19-22.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/03/184442

石井竹夫.2013e.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する星座早見を飾るアスパラガスの葉(前編・後編).人植関係学誌.13(1):27-34.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/24/092839 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/24/094203

石井竹夫.2014a.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する聖なる植物(前編・中編・後編).人植関係学誌.13(2):27-38.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/22/081209 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/22/082607  https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/22/083625

石井竹夫.2014b.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する光り輝くススキと絵画的風景(前編・後編).人植関係学誌.14(1):43-50.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/27/121321 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/27/123334

石井竹夫.2014c.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する赤い実と悲劇的風景(前編・後編).人植関係学誌.14(1):51-58.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/28/103010 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/28/104635

石井竹夫.2015a.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する楊と炎の風景(前編・後編).人植関係学誌.14(2):17-24.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/29/185712 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/29/190825

石井竹夫.2015b.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するススキと鳥を捕る人の類似点.人植関係学誌.14(2):25-28.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/23/141519

石井竹夫.2015c.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するクルミの実の化石(前編・後編).人植関係学誌.15(1):31-38.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/23/143740 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/23/144750

石井竹夫.2015d.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する桔梗色の空と三角標.人植関係学誌.15(1):39-42.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/01/093637

石井竹夫.2016a.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するアスパラガスとジョバンニの家(前編・後編).人植関係学誌.15(2):19-26.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/01/121730 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/01/123125

石井竹夫.2016b.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する列車の中のリンゴと乳幼児期の記憶.人植関係学誌.15(2):27-30.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/18/090817

石井竹夫.2016c.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するリンゴと十字架(前編・後編).人植関係学誌.16(1):45-51 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/18/093039 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/18/095045

石井竹夫.2016d.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する絹で包んだリンゴ.人植関係学誌.16(1):53-56.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/18/122106

石井竹夫.2017a.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するケンタウルス祭の植物と黄金と紅色で彩られたリンゴ(前編・中編・後編).人植関係学誌.16(2):21-37.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/19/150445 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/19/153207 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/19/155726

石井竹夫.2017b.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する野ばらと赤い点々を打った測量旗.人植関係学誌.17(1):17-22.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/07/160923

石井竹夫.2017c.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する赤い腕木の電信柱(前編・後編).人植関係学誌.17(1):23-32.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/09/090146 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/09/091209

石井竹夫.2018a.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の発想の原点としての橄欖の森-カムパネルラの恋(前編・中編・後編)-.人植関係学誌.17(2):15-32.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/11/162705 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/11/173753 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/11/185556

石井竹夫.2018b.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の発想の原点としての橄欖の森-ケヤキのような姿勢の青年(前編・後編)-.人植関係学誌.18(1):15-23.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/12/143453 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/12/145103

石井竹夫.2018c.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の発想の原点としての橄欖の森-リンドウの花と母への強い思い-.人植関係学誌.18(1):25-29.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/13/085221

石井竹夫.2019a.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の発想の原点としての橄欖の森-イチョウと二人の男の子-.人植関係学誌.18(2):47-52.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/14/100952

石井竹夫.2019b.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の発想の原点としての橄欖の森-アワとジョバンニの故郷(前編・後編)-.人植関係学誌.18(2):53-69.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/14/150002 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/14/152434

石井竹夫.2019c.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の発想の原点としての橄欖の森-ウリに飛びつく人達(前編・後編)-.人植関係学誌.19(1):11-24.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/17/081258 https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/17/083120

石井竹夫.2019d.宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の発想の原点としての橄欖の森-異界の入口の植物-.人植関係学誌.19(1):25-31.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/17/103821

農林水産省.2019(更新年).世界の食糧自給率.2020.1.12(調べた日付)https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/013-1.pdf

農林水産省.2020(更新年).農業労働力に関する統計.2020.1.12(調べた日付)https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html

 

本稿は人間・植物関係学会雑誌19巻第2号19~28頁2020年に掲載された自著報文(種別は資料・報告)を基にしたものである。原文あるいはその他の掲載された自著報文は人間・植物関係学会(JSPPR)のHPにある学会誌アーカイブスからも見ることができる。

http://www.jsppr.jp/academic_journal/archives.html