やまなし
宮沢賢治の『やまなし』は昭和46年(1971)版(『小学新国語六年上』)に掲載されて以来今日まで国語教材として使われてきた。国語教材の「てびき」の平成17年版と平成27年版に「なぜ,十二月にしか出てこない「やまなし」が題名になっているのだろう。理由…
童話『やまなし』が「仇討ち」を重要なテーマにしているという私の推測は,童話『やまなし』と同時期に書かれ,同じく「仇討ち」がテーマになっている童話『二十六夜』(1922 or 1923)を読むことで確実なものになってくる。童話『二十六夜』には小鳥や田螺…
前稿(石井,2023)で賢治が投影されている移入種の〈魚〉と恋人が投影されている谷川に先住する〈クラムボン〉の結婚が反対された「ほんとう」の理由は,遠い過去の大和朝廷やそれに続く中央政権と東北人の歴史的対立が関係しているかもしれないということ…
童話『やまなし』のもともとの題名は『蟹』であったとされる。童話『ひのきとひなげし』(初期形)表紙余白に「童話的構図 ①蟹,②ひのきとひなげし,③いてふの実,④ダアリアとまなづる・・・・・」と,また童話『青木大学士の野宿』第七葉裏に「ポランの広場…
前稿で,タネリが「南」の空を「くらげ」の「めがね」で透かして見たものは大都会東京やアメリカのシカゴ,ニューヨークのような伝統が破壊され自由を謳歌できる世界であり,「悪いもの」とは「南」にある別の世界であることを述べた。しかし,「くらげ」の…
童話『やまなし』(1923.4.8)に登場する〈蟹〉は父親と兄弟の子供しか登場しない。1971年に宮沢賢治研究会の例会で,なぜ母親が出てこないのかについて健在説,一時的不在説,入院説,死亡説という4つの見解が出され議論されていた(福島,1971)。私は…
恋人のことを少しでも知ろうとするには賢治の作品を読み解いていくしかない。恋人との悲恋物語は寓話『シグナルとシグナレス』の〈シグナル〉と〈シグナレス〉の恋として語られているということはすでに述べた(石井,2022a)。しかし,これだけではない。寓…
前稿で異稿「冬のスケッチ」に残されていた童話『やまなし』の創作メモ「さかなのねがひはかなし/青じろき火を点じつつ。//みずのそこのまことはかなし」の最初の1行と2行目は「さかな(賢治)のクラムボン(恋人)を水底(花巻)から連れだそうとした…
賢治は恋人と一緒かどうかは定かではないがアメリカへ行こうとしていたのは事実である。賢治と同郷の関徳彌(登久也)が,賢治の教え子である長坂俊雄(旧姓は川村)からアメリカ行きの話を聞いている。大正11年(1922)から12年頃に,賢治が「おれはアメリ…
前稿で異稿「冬のスケッチ」〈七-三〉に残されていた童話『やまなし』(1923.4.8)の創作メモ「さかなのねがひはかなし/青じろき火を点じつつ。//みずのそこのまことはかなし」の最初の1行「さかなのねがひはかなし」は,破局に向かっているときの恋…
青年が銀河鉄道の列車に乗車してきたとき,青年の腕には黒い外套を着た眼が茶色の可愛らしい〈女の子〉がすがっていた。そして,青年は船が氷山と衝突したとき〈女の子〉を救命ボートに乗せられなかった理由について話をする。同時に,青年は〈女の子〉を助…
童話『やまなし』(1923年4月8日新聞発表)の第一章「五月」には鉄色の〈魚〉と〈クラムボン〉の悲恋物語が書かれている(石井,2021a)。鉄色の〈魚〉には賢治が,川底に居る〈クラムボン〉には詩集『春と修羅』に登場してくる賢治の恋人が投影されている…
童話『やまなし』の第一章「五月」は,谷川の川底に先住していた〈クラムボン〉とあとから谷川にやってきた〈魚〉の悲恋物語りである。〈魚〉は〈かはせみ〉によって谷川から連れ出され,「樺の花」は散って川下へ流れさった。〈魚〉には賢治が,〈クラムボ…
第1稿と第2稿で童話に記載されている「うそ」と思われることを列挙した(第2表)。本稿では「ほんとう」と思われることをあげてみる。また,後半部で「うそ」と「ほんとう」を分けて明らかになったことについて述べてみる。 2.「ほんとう」と思われるこ…
引き続き,自然現象としては起こりえないこと,あるいは「うそ」と思われることについて列挙してみる。 5)「五月」に〈魚〉が〈クラムボン〉の廻りを行ったり来たりしたとき,兄の〈蟹〉が「何か悪いことをしてゐるんだよとつてるんだよ」と言ったこと 兄…
童話『やまなし』(1923年4月8日新聞発表)には,自然現象としては起こりえないこと,あるいは「うそ」と思われるものがたくさん記載されている。本稿ではそれらを列挙して,賢治がなぜそのような「うそ」を童話に組み込んだのかを考えてみたい。ただし,…
「ヤマナシ」(Pyrus pyrifolia;ピルス・ピリフォリア)の落果直後の新鮮なものは,コップの水に落とすと沈むことはすでに報告した(石井,2022a)。凍らせた果実を使ったりもしたが沈むだけであった。その後,落果してからしばらく放置し干からびさせたも…
童話『やまなし』で谷川の川底に棲む〈蟹〉の〈魚〉への「怒り」あるいは「反感」は,第一章「五月」では谷川に飛び込んでくる〈カワセミ〉の「赤い眼」として表現されていた。第二章「十二月」では〈カワセミ〉ではなく,「やまなし」の実が月夜の晩に「ド…
童話『やまなし』の第一章「五月」は,これまで谷川に棲む生き物(蟹,魚,クラムボン,かはせみ)の弱肉強食の生存競争や食物連鎖がメインテーマとして描かれていると考えられてきた。しかし,私は谷川を舞台にして,よそ者と先住土着の生き物の争いが描か…
前稿で,童話『やまなし』に登場する「やまなし」がバラ科ナシ属の「イワテヤマナシ」であることで矛盾はないが,バラ科リンゴ属の「オオウラジノキ」を否定するものでもないということを記載した。「やまなし」が「イワテヤマナシ」と「オオウラジロノキ」…
「イワテヤマナシ」(Pyrus ussuriensis Maxim.var.aromatica (Nakai et Kikuchi))Rehd.)は,童話『やまなし』の第二章「十二月」に登場する「やまなし」の有力な候補としてあげられている(伊藤,2007;片山,2019)。私も,「イワテヤマナシ」と同属…
童話『やまなし』の第二章「十二月」で「やまなし」の実が谷川に「ドブン」と落ちてくる。これは,『やまなし』の舞台となっている谷川では,12月でも樹上に「やまなし」の実が残っていることを意味する。 現在,日本列島には果樹園で栽培されるナシを除き,…
新寄宿舎で賢治と恋人がどんな会話をしていたのかは定かではない。ただ,童話『シグナルとシグナレス』(1923.5.11~23)では親戚から結婚を反対された〈シグナル〉と〈シグナレス〉が以下のような会話をしている。 諸君,シグナルの胸は燃えるばかり, 「あ…
童話『やまなし』の第二章「十二月」で,「やまなし(山梨)」の果実は「ドブン」と谷川に落ちたあと「ずうつとしずんで又上へのぼって」行き,そのあと「流れて」,そして「横になって木の枝にひっかかってとまり」,「二日ばかり」過ぎると「下へ沈む」と…
「なし」の果実は傷みやすく,腐敗すると「変色」し「皮がシワシワ」に萎れると言われている。11月5日に平塚市総合公園で採取したバラ科ナシ属の落果した「ヤマナシ」(Pyrus pyrifolia )の果実は,10日後に柔らかく,そして軽くなり,第1図のように4個中…
「りんご」は水に浮くが,「和なし」は水に沈むということはよく知られている。童話『やまなし』で,谷川に「ドブン」と落ちた「やまなし」の果実は「ずうつとしずん」で行くが,「又上へのぼって」行く。すなわち,水に浮くのである。そのあと,この果実は…
「イワテヤマナシ」(Pyrus ussuriensis Maxim.var.aromatica (Nakai et Kikuchi))Rehd.)は,最初に推定した人が誰だかは分からないが,童話『やまなし』に登場する「やまなし」の最も有力な候補としてあげられている(伊藤,2007;片山,2019)。しか…
童話『やまなし』の第二章「十二月」で,「やまなし」の果実は「ドブン」と谷川に落ちたあと「ずうつとしずんで又上へのぼって」行き,そのあと「流れて」,そして「横になって木の枝にひっかかってとまり」,「二日ばかり」過ぎると「下へ沈んでくる」とあ…
賢治童話に大正十二年(1923)4月8日付け岩手毎日新聞に発表した『やまなし』がある。この童話は,「一,五月」と「二.十二月」という2つ章から構成となっているが,第二章の章題「十二月」に異論を唱える研究者たちがいる。最初に異論を唱えたのは詩人…
童話『やまなし』(1923.4.8)が賢治の悲恋体験に基づくものであることについてはすでに報告した(石井,2021,2022)。本稿では,『やまなし』の舞台となった谷川のモデルが実在するかどうか検証する。 童話『やまなし』の舞台は,冒頭に「小さな谷川の底…