宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

湘南四季の花-Winter-

茅ヶ崎海岸(えぼし岩) 早春の植物を含む 1.オオイヌノフグリ (オオバコ科) 地上の星 早春,道路わきの陽だまりなどで瑠璃色の美しい花を咲かせ,我々の目を楽しませてくれるのが「オオイヌノフグリ」だ。花は直径8ミリほどだが,その形と色から「星の…

湘南四季の花-Autumn-

大磯町郷土資料館 1.カワラナデシコ (ナデシコ科) 撫でてやりたい愛娘 秋の七草の1つで大和撫子ともいう。神奈川では昔相模川の河原などで見ることができたらしい。秦野市や平塚市民の花でもある。花は淡紅紫色で花弁は細かく糸状に切れ込む。「撫子」…

湘南四季の花-Summer-

1.ネジバナ (ラン科) 公園の芝生の中でよく見かける。県立大磯城山(じょうやま)公園では6月頃から咲き始める。高さが20センチくらいで雑草のように見えるがこれでもラン科の植物である。ルーペなどで拡大して観察すると花がカトレアのようにも見えて…

湘南四季の花-Spring-

1.シロツメクサ (マメ科)よつ葉を見つけるとちょっと楽しくなる。これは花にもいえそうだ。賢治の童話『ポラーノの広場』には,野原一面に咲くシロツメクサの花がでてくる。夕暮れになると花がランタンのように明るく輝く。花には番号が付いていて,その…

『なめとこ山の熊』に登場する薬草

『なめとこ山の熊』という童話は,「またぎ」を職業とし,「なめとこ山」で熊を獲ってはその皮と内臓の胆嚢を売って生計を立てている淵沢小十郎の生き様を描いた物語である。「なめとこ山」とは奇妙な名だが,実在する(岩手県の花巻と雫石の境にある標高860…

『どんぐりと山猫』の舞台は碁盤の上

神奈川県大磯町の城山公園には暖温帯に自生するイチイ科の「カヤ(榧)」(Torreya nucifera (L.) Siebold et Zucc. )が植栽されている(第1図)。この木を見ると東北出身の宮沢賢治の童話『どんぐりと山猫』を思い出す。本稿では,なぜ暖温帯性の「カヤ」…

植物から宮沢賢治の『よく利く薬とえらい薬』の謎を読み解く(4)

前報では,〈大三〉が手に入れようとした「透き通ったばらの実」の正体が,「自分」を「さいはひ」にさせる手段としての「科学の力」であることを明らかにした。本編では,「葦」などの植物が物語に登場する意味を解明することによって,この童話に教師時代…

植物から宮沢賢治の『よく利く薬とえらい薬』の謎を読み解く(3)

3.宗教と科学に対する賢治の思い 童話『よく利く薬とえらい薬』は「宗教と科学」について,賢治がどのように考えているのかが記載されているように思える。この物語を手短に要約すれば,『農民芸術概論綱要』(1926年頃)にある「宗教は疲れて近代科学に置…

植物から宮沢賢治の『よく利く薬とえらい薬』の謎を読み解く(2)

前報では,〈清夫〉が幻影の中で見た「透き通ったばらの実」の正体が,「みんなのさいはひ」をもたらす手段としての「宗教」でありその「信仰」を手助けする「法華経」のことであることを明らかにした。本編では,童話『よく利く薬とえらい薬』や同時期の他…

植物から宮沢賢治の『よく利く薬とえらい薬』の謎を読み解く(1)

はじめに 『よく利く薬とえらい薬』は大正10年(1921)から11年(1922)頃に書かれたとされる短編童話である。この物語は主人公である親孝行の〈清夫〉と偽金使いの〈大三〉が「透き通ったばらの実」を探す物語である。〈清夫〉は森の中で「透き通ったばらの…

植物から宮沢賢治の『烏の北斗七星』の謎を読み解く(6)

6.「サイカチ」には鬼神が宿る 〈許嫁〉は2回目の夢の中でも「先住民」の「神」に対して祈りを捧げるが,今度は「まっ黒で巨きなもの」が具体的な鼻眼鏡をかけた山烏の姿となって現れる。烏には耳介がないので鼻眼鏡である。眼鏡は,13世紀にイタリアで発…

植物から宮沢賢治の『烏の北斗七星』の謎を読み解く(5)

5.恋物語 1)恋物語が挿入されているのはなぜか 賢治が童話『烏の北斗七星』に恋物語を挿入したのは,賢治自身がこの童話の初稿を書いたとされる日(1921.12.21)からこの童話が掲載されている童話集『注文の多い料理店』の印刷(1924.11.10)までの…

植物から宮沢賢治の『烏の北斗七星』の謎を読み解く(4)

4.戦いにおける祈りと泪(涙)の意味 1)烏の駆逐艦隊の泪の意味 童話『烏の北斗七星』では逃げる山烏を多数艦で囲み撃沈(殺戮)するシーンが描かれていた。〈烏の大尉〉は敵の山烏の頭に鋭く一突き食らわせ,その後に横から兵曹長が一突きして敵の山烏…

植物から宮沢賢治の『烏の北斗七星』の謎を読み解く(3)

前稿で,登場する植物を解読することによって,童話『烏の北斗七星』が「東北」の「先住民」と朝廷軍の三十八年戦争がイメージされていることを明らかにした。本稿から,三十八年戦争を念頭に置いて,烏の戦士達の戦いにおける北斗七星への「祈り」と「涙(泪…

植物から宮沢賢治の『烏の北斗七星』の謎を読み解く(2)

2.物語は「東北」の「先住民」と朝廷の三十八年戦争が題材になっている 童話『烏の北斗七星』は,「三十八年戦争」の中でも延暦13年(794)に朝廷側が行った蝦夷征討が主にイメージされているように思える。冬の田圃に横列で「仮泊」する「里烏」と思われ…

植物から宮沢賢治の『烏の北斗七星』の謎を読み解く(1)

目次 はじめに 1.物語の戦いの場所とモデルとなった過去の戦争 1)戦場は日本列島 2)物語に登場する栗や杉は戦争が先住民(狩猟採集民)と渡来人(農耕民)の子孫達の争いであることを示唆している (1)栗の登場が意味するもの (2)杉の登場が意味す…