宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

童話『やまなし』考 -冬のスケッチ(創作メモ)にある「さかなのねがいはかなし」とはどういう意味か (第2稿)-

青年が銀河鉄道の列車に乗車してきたとき,青年の腕には黒い外套を着た眼が茶色の可愛らしい〈女の子〉がすがっていた。そして,青年は船が氷山と衝突したとき〈女の子〉を救命ボートに乗せられなかった理由について話をする。同時に,青年は〈女の子〉を助…

童話『やまなし』考 -冬のスケッチ(創作メモ)にある「さかなのねがいはかなし」とはどういう意味か (第1稿)-

童話『やまなし』(1923年4月8日新聞発表)の第一章「五月」には鉄色の〈魚〉と〈クラムボン〉の悲恋物語が書かれている(石井,2021a)。鉄色の〈魚〉には賢治が,川底に居る〈クラムボン〉には詩集『春と修羅』に登場してくる賢治の恋人が投影されている…

童話の「やまなし」の実が「横になって木の枝にひっかかってとまる」とは何を意味しているのか

童話『やまなし』の第一章「五月」は,谷川の川底に先住していた〈クラムボン〉とあとから谷川にやってきた〈魚〉の悲恋物語りである。〈魚〉は〈かはせみ〉によって谷川から連れ出され,「樺の花」は散って川下へ流れさった。〈魚〉には賢治が,〈クラムボ…

童話『やまなし』に記載されている「うそ」と「ほんとう」を分けてみて明らかになること (第3稿)

第1稿と第2稿で童話に記載されている「うそ」と思われることを列挙した(第2表)。本稿では「ほんとう」と思われることをあげてみる。また,後半部で「うそ」と「ほんとう」を分けて明らかになったことについて述べてみる。 2.「ほんとう」と思われるこ…

童話『やまなし』に記載されている「うそ」と「ほんとう」を分けて明らかになること (第2稿)

引き続き,自然現象としては起こりえないこと,あるいは「うそ」と思われることについて列挙してみる。 5)「五月」に〈魚〉が〈クラムボン〉の廻りを行ったり来たりしたとき,兄の〈蟹〉が「何か悪いことをしてゐるんだよとつてるんだよ」と言ったこと 兄…

童話『やまなし』に記載されている「うそ」と「ほんとう」を分けて明らかになること (第1稿)

童話『やまなし』(1923年4月8日新聞発表)には,自然現象としては起こりえないこと,あるいは「うそ」と思われるものがたくさん記載されている。本稿ではそれらを列挙して,賢治がなぜそのような「うそ」を童話に組み込んだのかを考えてみたい。ただし,…

童話『やまなし』考 -氷のついた「ヤマナシ」(Pyrus pyrifolia)の実は水に落ちて沈み,浮かび,再び沈む-

「ヤマナシ」(Pyrus pyrifolia;ピルス・ピリフォリア)の落果直後の新鮮なものは,コップの水に落とすと沈むことはすでに報告した(石井,2022a)。凍らせた果実を使ったりもしたが沈むだけであった。その後,落果してからしばらく放置し干からびさせたも…

童話『やまなし』の第二章「十二月」に登場する赤いと思われる「やまなし」の実も「怒り」と関係があるのか

童話『やまなし』で谷川の川底に棲む〈蟹〉の〈魚〉への「怒り」あるいは「反感」は,第一章「五月」では谷川に飛び込んでくる〈カワセミ〉の「赤い眼」として表現されていた。第二章「十二月」では〈カワセミ〉ではなく,「やまなし」の実が月夜の晩に「ド…

童話『やまなし』の第一章「五月」に登場する〈カワセミ〉の眼は黒いはずなのになぜ赤いと言うのか

童話『やまなし』の第一章「五月」は,これまで谷川に棲む生き物(蟹,魚,クラムボン,かはせみ)の弱肉強食の生存競争や食物連鎖がメインテーマとして描かれていると考えられてきた。しかし,私は谷川を舞台にして,よそ者と先住土着の生き物の争いが描か…

童話『やまなし』に登場する「やまなし」が「イワテヤマナシ」である可能性について (2)

前稿で,童話『やまなし』に登場する「やまなし」がバラ科ナシ属の「イワテヤマナシ」であることで矛盾はないが,バラ科リンゴ属の「オオウラジノキ」を否定するものでもないということを記載した。「やまなし」が「イワテヤマナシ」と「オオウラジロノキ」…

童話『やまなし』に登場する「やまなし」が「イワテヤマナシ」である可能性について (1)

「イワテヤマナシ」(Pyrus ussuriensis Maxim.var.aromatica (Nakai et Kikuchi))Rehd.)は,童話『やまなし』の第二章「十二月」に登場する「やまなし」の有力な候補としてあげられている(伊藤,2007;片山,2019)。私も,「イワテヤマナシ」と同属…

童話『やまなし』考 -12月に樹上に残る「ヤマナシ」(Pyrus pyrifolia )の実-

童話『やまなし』の第二章「十二月」で「やまなし」の実が谷川に「ドブン」と落ちてくる。これは,『やまなし』の舞台となっている谷川では,12月でも樹上に「やまなし」の実が残っていることを意味する。 現在,日本列島には果樹園で栽培されるナシを除き,…

童話『やまなし』考 -「十二月」に「やまなし」の実が川底に沈むことにどんな意味が込められているのか (第2稿)-

新寄宿舎で賢治と恋人がどんな会話をしていたのかは定かではない。ただ,童話『シグナルとシグナレス』(1923.5.11~23)では親戚から結婚を反対された〈シグナル〉と〈シグナレス〉が以下のような会話をしている。 諸君,シグナルの胸は燃えるばかり, 「あ…

童話『やまなし』考 -「十二月」に「やまなし」の実が川底に沈むことにどんな意味が込められているのか (第1稿)-

童話『やまなし』の第二章「十二月」で,「やまなし(山梨)」の果実は「ドブン」と谷川に落ちたあと「ずうつとしずんで又上へのぼって」行き,そのあと「流れて」,そして「横になって木の枝にひっかかってとまり」,「二日ばかり」過ぎると「下へ沈む」と…

童話『やまなし』では水に浮いた「やまなし」の実が2日で川底に沈みしばらくすると酒ができるとあるが (2)

「なし」の果実は傷みやすく,腐敗すると「変色」し「皮がシワシワ」に萎れると言われている。11月5日に平塚市総合公園で採取したバラ科ナシ属の落果した「ヤマナシ」(Pyrus pyrifolia )の果実は,10日後に柔らかく,そして軽くなり,第1図のように4個中…

童話『やまなし』では水に浮いた「やまなし」の実が2日で川底に沈み,しばらくすると酒ができるとあるが (1)

「りんご」は水に浮くが,「和なし」は水に沈むということはよく知られている。童話『やまなし』で,谷川に「ドブン」と落ちた「やまなし」の果実は「ずうつとしずん」で行くが,「又上へのぼって」行く。すなわち,水に浮くのである。そのあと,この果実は…

童話『やまなし』の「やまなし」が「オオウラジロノキ」である可能性について

「イワテヤマナシ」(Pyrus ussuriensis Maxim.var.aromatica (Nakai et Kikuchi))Rehd.)は,最初に推定した人が誰だかは分からないが,童話『やまなし』に登場する「やまなし」の最も有力な候補としてあげられている(伊藤,2007;片山,2019)。しか…

童話『やまなし』に登場する「やまなし」の実は水に浮くが「イワテヤマナシ」も同じように浮くのか

童話『やまなし』の第二章「十二月」で,「やまなし」の果実は「ドブン」と谷川に落ちたあと「ずうつとしずんで又上へのぼって」行き,そのあと「流れて」,そして「横になって木の枝にひっかかってとまり」,「二日ばかり」過ぎると「下へ沈んでくる」とあ…

童話『やまなし』考 -第二章の章題「十二月」は「十一月」の誤りか-

賢治童話に大正十二年(1923)4月8日付け岩手毎日新聞に発表した『やまなし』がある。この童話は,「一,五月」と「二.十二月」という2つ章から構成となっているが,第二章の章題「十二月」に異論を唱える研究者たちがいる。最初に異論を唱えたのは詩人…

童話『四又の百合』に登場するまっ白な貝細工のやうな百合の十の花のついた茎(4)-なぜ10銭で売ろうとした花がルビーの首飾りと同等なのか-

前稿(2)と(3)では「まっ白な貝細工のやうな百合の十の花のついた茎」が聖なる花であり「強い信仰心」を象徴しているということを記した。本稿(4)では,なぜ,この信仰心を象徴する百合の花を〈はだしの子供〉は10銭で売ろうとし,また〈大蔵大臣〉…

童話『四又の百合』に登場するまっ白な貝細工のやうな百合の十の花のついた茎(3)-この1茎を持つはだしの子供とは誰か-

童話『四又の百合』では,この「四又の百合」を持つ〈はだしの子供〉は「日がまっ白に照って半分あかるく夢のやうに見える家」の前の「栗の木」の下に立っている。はたして,この〈はだしの子供〉とは誰か。この問の答えのヒントは,この童話と深く関係する…

童話『四又の百合』に登場するまっ白な貝細工のやうな百合の十の花のついた茎(2)-その1茎は奇麗な心が形になったものか-

前稿(1)で,「四又」で「まっ白な貝細工のやうな百合の十の花のついた茎」に相当する百合の花は自然界には存在しないということを報告した。では,〈はだしの子供〉あるいは国王が〈正徧知(しょうへんち)〉に渡そうとした1茎の「四又」で「十の花のつい…

童話『四又の百合』に登場するまっ白な貝細工のやうな百合の十の花のついた茎(1)-それは自然界に存在するのか-

『四又の百合』は大正12年(1923)後半に清書されたと言われている短編の童話である(原,1999)。この童話には「まっ白な貝細工のやうな百合の十の花のついた茎」という不思議な1茎の百合の花が登場する。多分,この「十の花のついた茎」とは童話の題名に…

宮沢賢治の詩に登場するジュグランダーやフサランダーとは何か

宮沢賢治の詩集『春と修羅』(第二集)の「四〇三 岩手軽便鉄道の一月」(1926,1,17)には「ジュグランダー」,「サリックスランダー」,「アルヌスランダー」,「ラリクスランダー」,「モルスランダー」,「フサランダー」と耳慣れない言葉が立て続けに…

賢治は実際にセンホインという植物を見たのか

「センホイン」という植物は,詩集『春と修羅 第二集』の 329〔野馬がかってにこさえたみちと〕(1924.10.26)に登場する。どんな植物なのだろうか。『新宮澤賢治語彙辞典』によれば,「センホイン(sainfoin)」は「イガマメ属の総称で南欧から中央アジア…

童話『やまなし』の舞台となった谷川は実在するか-イサドとの関係-

童話『やまなし』(1923.4.8)が賢治の悲恋体験に基づくものであることについてはすでに報告した(石井,2021,2022)。本稿では,『やまなし』の舞台となった谷川のモデルが実在するかどうか検証する。 童話『やまなし』の舞台は,冒頭に「小さな谷川の底…

賢治の文語詩「民間薬」(第3稿)-ネプウメリてふ草の葉とは何か-

「ネプウメリという草の葉」とは,疲労回復の草の葉ではなく,「禍」を引き起こす「怨霊」を鎮魂する草の葉と思われる。この効能を有する「ネプウメリ」という名の薬草を探してみる。 本稿では,「ネプウメリ」の「ネプ」と同音の発音を含む「ねぷた」という…

賢治の文語詩「民間薬」(第2稿)-羆熊の皮は魔除けか-

前稿で文語詩「民間薬」の「干泥のわざ」は,農作業という意味ではなく,旱魃の「禍」,すなわち「旱魃禍」であるということを述べた。本稿では「羆熊の皮」について考察する。 2)「たけしき耕の具を帯びて,羆熊の皮は着たれども」とは 「たけしき耕の具…

賢治の文語詩「民間薬」(第1稿)-干泥のわざとは旱魃禍のことである-

はじめに 文語詩「民間薬」は,賢治が最初に発表した2つの文語詩のうちの1つである(もう1つは後述する「選挙」)。「民間薬」には,多田保子編集発行「女性岩手」創刊号(1932.8.15)への発表形,黄罫詩稿用紙に書かれた下書き稿と定稿の3つがある。…

童話『ガドルフの百合』考(第6稿)-賢治は本当に〈恋〉よりも〈宗教〉の方を重要と考えたのか

童話『ガドルフの百合』を読むと,恋人は両家の近親者達から繰り返し反対されても,賢治について行こうとしていた様子がうかがえる。この童話に記載されている言葉を借りれば,ガドルフ(賢治)は,背の高い「白百合」(恋人)が,雷光を伴う嵐(結婚に対す…