宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

童話『ガドルフの百合』考(第6稿)-賢治は本当に〈恋〉よりも〈宗教〉の方を重要と考えたのか

童話『ガドルフの百合』を読むと,恋人は両家の近親者達から繰り返し反対されても,賢治について行こうとしていた様子がうかがえる。この童話に記載されている言葉を借りれば,ガドルフ(賢治)は,背の高い「白百合」(恋人)が,雷光を伴う嵐(結婚に対す…

童話『ガドルフの百合』考(第5稿)-朝廷と東北先住民の歴史的対立

「白百合」は雷雨で折られ,そしてガドルフは,夢の中で二人男の争いが原因で倒されてしまう。この争いは,ガドルフと「白百合(恋人)」の恋の顛末とどのように関係してくるのであろうか。ガドルフを賢治に,「白百合」を賢治の恋人として以下に考察してみ…

童話『ガドルフの百合』考(第4稿)-夢の中で争う二人の男は誰か

背の高い「白百合」が嵐で折れたことを恋の破局と解釈すれば,この破局の理由は何であろうか。ヒントは,「白百合」が折れた直後に「クジラの頭」をイメージしている「稜が五角の屋根」を持つ「巨きなまっ黒な家」の中で見た夢の中の二人の男の争いに隠され…

童話『ガドルフの百合』考(第3稿)-「俺の百合は勝ったのだ」の「百合」とは何か

本稿では,「俺の百合は勝ったのだ」の「百合」が何を意味しているのについて検討する。 この「百合」は,恋人をイメージできる庭に咲く折れた1本の「丈の高い百合」でも,折れずに「勝ち誇ったかのように」残った10本ほどの「百合」のことでもない。この百…

童話『ガドルフの百合』考(第2稿)-百合の花に喩えた女性とは誰か

本稿では,「巨きなまっ黒な家」の庭に咲く丈の高い「百合」と,「しのぶぐさ」の上に横たわる「百合」が何を意味しているのについて検討する。 1.賢治の恋人との関係 ガドルフは,「巨きなまっ黒な家」に避難したのちに,庭に雷光で映し出される「しろい…

童話『ガドルフの百合』考(第1稿)-「稜が五角の屋根」を持つ「巨きなまっ黒な家」とは何か

童話『ガドルフの百合』考 目次 第1稿-「稜が五角の屋根」を持つ「巨きなまっ黒な家」とは何か はじめに 1.「曖昧な犬」は先住民の比喩 2.「稜が五角の屋根」を持つ「巨きなまっ黒な家」は「クジラの頭」 第2稿-百合の花に喩えた女性とは誰か 1.賢…

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか (第6稿)-祭られなくなったが先住民の心の中には存在し続けている-

〈土神〉は,「人間どもは不届きだ。近頃はわしの祭りにも供物一つ持って来ん」と嘆いている。なぜ土着の神である〈土神〉が祭られなくなったのだろうか。「祭り」が南部北上山地西縁の東和にある三熊野神社内の成島毘沙門堂(毘沙門天)や不動谷内権現を祀…

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか (第5稿)-東北の祭りとの関係-

本稿では〈土神〉と「東北」の祭りとの関係について述べる。物語で〈土神〉の「祠」がある場所の祭りは,〈土神〉が「今日は五月三日,あと六日だ」と言っているので5月9日である。この物語は岩手山東側の「一本木野」が主な舞台なので,この周辺の神社な…

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか(第4稿)-蝦夷との関係-

本稿では「アイヌ」と「東北」の「先住民」である「蝦夷」の関係について述べる。 6.東北の「アイヌ」は「蝦夷」のこと 木村東吉(1994)によれば,詩〔日はトパースのかけらをそゝぎ〕の舞台は第3稿で述べたように花巻の西の郊外,山の神・熊堂付近にあ…

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか (第3稿)-鬼神との関係-

第1稿と第2稿で,〈土神〉は神道で言われている土地を守護する「地主神」(あるいは「産土の神」)であり,また人間のような姿・形を有しているので「アイヌ」の神や祟り神や天邪鬼の要素を併せ持つ「鬼神」である可能性について述べた。本稿では引き続き…

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか (第2稿)-土神の棲む祠の近くにある植物との関係-

賢治作品で難解な用語あるいは正体が不明なものが在る場合,近くに配置されている植物がなぜ登場してくるのか調べることによって明らかになる場合が少なくない(石井,2020)。〈土神〉の棲む「祠」近くには沢山の植物がある。苔,からくさ,短い蘆,あざみ…

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか (第1稿)-記紀神話,神道,アイヌ神との関係-

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか 目次 第1稿-記紀神話,神道,アイヌの神との関係- はじめに 1.物語の舞台と時代および〈土神〉の性格 2.〈土神〉は土地を守護する地主神である 1)記紀神話や神道に登場する土の神 2)アイヌ…

童話『氷河鼠の毛皮』考 (4) -先住していた者たちの止むに止まれない反感-

物語の後半部で間諜(スパイ)の〈痩せた赤ひげ〉によって誘導された20人ほどの〈熊のやうな人たち〉が列車に乗り込んでくる。本稿では,この〈熊のやうな人たち〉が何の目的で〈タイチ〉を連れだそうとしたのかについて考察する。 〈熊のような人たち〉は〈…

童話『氷河鼠の毛皮』考 (3) -熊のやうな人たちとは何者か-

物語の後半部で間諜(スパイ)の〈痩せた赤ひげ〉によって誘導された20人ほどの〈熊のやうな人たち〉が列車に乗り込んでくる。本稿では,この〈熊のやうな人たち〉が誰かについて考察する。 〈熊のような人たち〉が列車に乗り込んでくる場面は以下の通り。 …

童話『氷河鼠の毛皮』考 (2) -タイチとは何者か-

この物語は〈船乗りの青年〉と〈月〉との悲恋物語を主要テーマにしているのではない。この物語の主人公は〈タイチ〉である。本稿では,〈タイチ〉が何者で,〈船乗りの青年〉とどのような関係があるのかを考察する。 最初に結論を述べる。〈タイチ〉のモデル…

童話『氷河鼠の毛皮』考 (1) -青年はなぜ月に話かけているのか-

童話『氷河鼠の毛皮』は,大正12(1923)年4月15日に地方紙である岩手毎日新聞の三面に掲載されたものである。この童話はイーハトヴ発ベーリング行きの最大急行列車の車内で〈タイチ〉という裕福な紳士が〈熊のやうな人たち〉に襲われるが,その列車内に偶…

童話『やまなし』考 -クラムボンは笑った,そして恋は終わった-

キーワード : 誤解,ぷかぷか,かぷかぷ,失笑,嘲笑 童話『やまなし』は地方紙の岩手毎日新聞に大正12(1923)年4月8日に掲載されたものである。「クラムボンはわらつたよ。クラムボンはかぷかぷわらつたよ。・・・」と「アイヌ」の叙事詩ユーカラのような…

シグナルとシグナレスの反対された結婚 (3) -本線シグナル附きの電信柱とは何者か-

キーワード:安楽行品第十四,法華経,普賢菩薩 澤口(2010)は〈本線シグナル附きの電信柱〉(=太っちょの電信柱)が何者かについては言及していない。米地(2016)も「最も矛盾に満ちた不自然な性格」であり「該当者不明」としている。しかし,この電信柱…

シグナルとシグナレスの反対された結婚 (2) -実在した人物に対応させることができるか-

キーワード: 移住者,先住民,出自 前稿で〈本線シグナル附き電信柱〉が激怒して2人の結婚に反対した理由について,特に反対のきっかけになったことを中心に話した。本稿では,賢治が生きた時代に〈シグナル〉と〈シグナレス〉のキャラクターに当てはまる…

シグナルとシグナレスの反対された結婚 (1) -そのきっかけはシグナレスが笑ったから-

キーワード: エルサレムアーティチョーク,失笑,嘲笑 童話『シグナルとシグナレス』は大正12(1923)年5月11日~23日にかけて岩手毎日新聞に掲載されたものである。タイトルにある〈シグナル〉は,本線側の金属製で電燈と信号腕木が付いた新式の信号機のこ…

自分よりも他人の幸せを優先する宮沢賢治 (3)-それによって築いたものは蜃気楼にすぎなかったのか-

本稿は,法華経をもとに創作したたくさんの童話あるいは菩薩行が賢治にとって満足できるものであったのかを問いたい。 法華経に陶酔した賢治は,大正9年(1920)に純正日蓮主義を主張する田中智学により創設された「国柱会」の信行部に入会する。その後,賢…

自分よりも他人の幸せを優先する宮沢賢治 (2)-法華経との出会いと感動した理由-

寂しかった賢治は,幼い頃に聞いた「ひとというものはひとのために何かしてあげるために生まれてきたのス」という母の言葉,すなわち母が望む「人の役に立つことをする」にはどうすればよいのかということを長い間模索していたと思われる。そして,賢治は仏…

自分よりも他人の幸せを優先する宮沢賢治 (1)-性格形成に影響を及ぼした母の言葉- 

賢治は,自分よりも他人の幸せを優先するという性格を有している。この性格は幼い頃から持っていたようで,18歳で島地大等編纂の『漢和対照妙法蓮華経』を読んで感動し,やがて法華経の世界にのめり込んでいく。賢治は,法華経の教えを童話の形にした作品を…

自分よりも他人の幸せを優先するカムパネルラ-性格形成に影響を与えた母の言葉- 

前ブログで,『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』に登場する鬼殺隊の煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)が自分を犠牲にしてまでも他者(弱き人)を優先する特異な性格を持っていること,およびその性格形成に導いた理由の1つに幼い頃に母から聞いた「弱き人…

自分よりも他者を優先する煉獄杏寿郎-性格形成に影響を与えた母の言葉- 

2020年に吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)の漫画『鬼滅の刃』を原作としてufotableが制作した長編アニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が公開された。220日間の我が国での観客動員数は2896万人である。2021年にはテレビ(7回シリーズ)でも放映された…

ブログ内容の紹介

謎の多い宮沢賢治の作品をそこに登場する植物を丁寧に調べることによって読み解いています。本ブログの内容は,ブログ名について,作品論,エッセイの3項目から構成されています。作品論とエッセイにあるカテゴリー名末尾の括弧内の数字は各カテゴリーの記事…

童話『ビヂテリアン大祭』-植物を食べることの意味-

多くの菜食主義者(ベジタリアン)たちは,植物は食べるが動物は食べない。動物を食べない理由には2つあり,それぞれ2つのタイプのベジタリアンンが存在する。1つは動物に対して同情するから食べないというもので(同情派)で,もう1つは体に良くないから…

「カラスウリ」は童話『銀河鉄道の夜』を象徴する植物である

童話『銀河鉄道の夜』には「烏瓜のあかり」が繰り返し登場してくる。この「烏瓜のあかり」に使われる「カラスウリ」(ウリ科;Trichosanthes cucumeroides Maxim.)は,第1図に示すように花が日没後に開花することや,蔓が上方に伸びることで地上と天上を結…

童話『やまなし』に登場するクラムボンは石の下の小さな生物という意味である

前稿(石井,2021)で,童話『やまなし』に登場する〈クラムボン〉には従来の解釈と異なり先住民の女性が投影されていて,賢治の悲恋物語が描かれているという新しい説を示した。すなわち,童話には谷川に棲む〈魚〉と〈クラムボン〉の悲恋物語が記載されて…

童話『やまなし』は魚とクラムボンの悲恋物語である

宮沢賢治の童話『やまなし』は,大正12(1923)年4月8日に岩手毎日新聞に発表されたものである。この童話には,〈蟹〉,〈魚〉,〈鳥〉などの動物や「樺の木」や「やまなし」などの植物が登場し,〈蟹〉の親子(父親と二人の男の子)がこれら動植物を谷川…