宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

ブログ内容の紹介

謎の多い宮沢賢治の作品をそこに登場する植物を丁寧に調べることによって読み解いています。本ブログの内容は,ブログ名について,作品論,エッセイの3項目から構成されています。作品論とエッセイにあるカテゴリー名末尾の括弧内の数字は各カテゴリーの記事…

童話『ビヂテリアン大祭』-植物を食べることの意味-

多くの菜食主義者(ベジタリアン)たちは,植物は食べるが動物は食べない。動物を食べない理由には2つあり,それぞれ2つのタイプのベジタリアンンが存在する。1つは動物に対して同情するから食べないというもので(同情派)で,もう1つは体に良くないから…

「カラスウリ」は童話『銀河鉄道の夜』を象徴する植物である

童話『銀河鉄道の夜』には「烏瓜のあかり」が繰り返し登場してくる。この「烏瓜のあかり」に使われる「カラスウリ」(ウリ科;Trichosanthes cucumeroides Maxim.)は,第1図に示すように花が日没後に開花することや,蔓が上方に伸びることで地上と天上を結…

童話『やまなし』に登場するクラムボンは石の下の小さな生物という意味である

前稿(石井,2021)で,童話『やまなし』に登場する〈クラムボン〉には従来の解釈と異なり先住民の女性が投影されていて,賢治の悲恋物語が描かれているという新しい説を示した。すなわち,童話には谷川に棲む〈魚〉と〈クラムボン〉の悲恋物語が記載されて…

童話『やまなし』は魚とクラムボンの悲恋物語である

宮沢賢治の童話『やまなし』は,大正12(1923)年4月8日に岩手毎日新聞に発表されたものである。この童話には,〈蟹〉,〈魚〉,〈鳥〉などの動物や「樺の木」や「やまなし」などの植物が登場し,〈蟹〉の親子(父親と二人の男の子)がこれら動植物を谷川…

宮沢賢治の『若い木霊』(7) -なぜ物語にやどり木と栗の木が登場するのか-

Keywords: 栗の木,再生と復活,神聖な木,やどりぎ 本稿では,なぜ物語にやどり木と栗の木が登場するのかについて考察する。最後に「まとめ」を記す。 8.やどり木 「やどり木」はビャクダン科の「ヤドリギ(宿り木)」(Viscum album L.subsp.coloratum…

宮沢賢治の『若い木霊』(6) -黒い森と大きな木霊から逃げた理由-

Keywords: 葦,恋人,まっくらな巨きなもの,先住民,日本武尊 本稿では,「黒い森」が何を意味しているのか明らかにし,〈若い木霊〉が〈大きな木霊〉から逃げた理由について考察する。「黒い森」は以下の場面で登場してくる。 「鴾(とき),鴾,どこに居…

宮沢賢治の『若い木霊』(5) -鴾の火と法華経(安楽行品)の関係について-

Keywords:安楽行品,髻中明珠,黒い鴾,暗い木立 本稿では,「法華経」の「四要品」の一つである「安楽行品第十四」の教えが以下の〈鴾〉が〈若い木霊〉を連れていった「桜草のかげらふ」の中,あるいは〈鴾〉と〈若い木霊〉の会話の中に隠されているかどう…

宮沢賢治の『若い木霊』(4) -鴾の火と法華経・如来寿量品の関係について-

Keywords:春の光,ほんたうのこと,24時間の明暗周期,如来寿量品第十六,沈んでまた昇る,良医治子 本稿では,「法華経」の「四要品」の一つである「如来寿量品(にょらいじゅりょうほん)第十六」の教えが以下の〈桜草〉の独り言の中に隠されているかどう…

宮沢賢治の『若い木霊』(3) -鴾の火と法華経・観世音菩薩普門品の関係について-

Keywords:春の光,観世音菩薩普門品二十五,かたくりの葉の模様,太陽の高さ 本稿では,「法華経」の「四要品」の一つである「観世音菩薩普門品(かんぜおんぼさつふもんぼん)第二十五」の教えが以下の2番目の丘の向こうの窪地に咲く〈かたくり〉の葉に現…

宮沢賢治の『若い木霊』(2) -鴾の火と法華経・方便品の関係について-

Keywords:春の光,蟇,譬喩品第三,方便品第二,三車火宅,鴾の火 本稿では,最初に「法華経」の「四要品」の一つである「方便品(ほうべんぼん)第二」の教えが以下の最初の丘を下った窪地にいる〈蟇〉の独り言の中に隠されているかどうか検討する。下記引…

宮沢賢治の『若い木霊』(1) -「四」という数字が意味するもの-

Keywords: 文学と植物のかかわり,法華経,一水四見,柏,四要品 賢治の童話に『若い木霊』というのがある。制作年度は確定されていないが,大正11年(1922)11月の妹トシの死以前に書き始められたとされている(中地,1991a)。 木の精霊である主人公の〈…

春の妖精たち

「春の妖精」とは,雪解けとともに春一番で地上に姿を現し,初夏の樹上の若葉が出揃う前に姿を消してしまうはかなくも愛らしい植物たちのことをいう。「スプリング・エフェメラル(春の短い命)」とも呼ぶこともある。カタクリ,サクラソウ,フクジュソウ,…

復活と再生のシンボルとしてのヤドリギ

冬に樹木の高い枝を見ていくと,こんもりと小さな枝と葉のかたまりが毬(まり)状になっているのを見ることができる。これがヤドリギ(宿り木;Viscum album L. subsp. coloratum Kom )である(第1図)。冬でなくても注意深く観察すれば見つけることは難し…

ドングリ問答-いちばんえらいのは-

ドングリって何ですか イメージ的には小さくて,丸っこくて,しかも先が尖っていて,堅い殻をもつ木の実です。生物学の本でも諸説があって混乱しています。環境省自然保護局生物多様センターの定義では,ブナ科のコナラ属,シイ属,マテバシイ属の果実を総称…

なぜ人は食べもしないドングリを拾うのか(試論)

秋も深まったころ,県立大磯城山公園内の草地を散策していたら,多数の家族連れが2~3本のシラカシの木の下で一生けんめい地面に落ちた「ドングリ」を拾っているのを見かけた。中には,子供たちと一緒に大人も夢中になって拾っていた。城山公園にはコナラ,…

ガラスマントの宅急便-ヤシの謎-(試論)

賢治の童話『風野又三郎』(1924年2月12日以前の作)は,いきなり何の前触れもなく「九月一日 どっどどどどうど どどうど どどう」という風の音の擬音で始まる。この作品に登場する「又三郎」は,「ガラスのマント」と透きとおる「沓(くつ)」を履いて空を…

リンドウの花は「サァン,ツァン,サァン,ツァン」と踊りだす

賢治は,作品にたくさんの擬音(オノマトペの一種)を入れることで知られている。童話『十力の金剛石』でも,天然物,動物,植物とさまざまな物に擬音が使われている。普通,物が動くとき音を発する。時計が時を刻むとき,実際そのように聞こえるかどうかは…

宮沢賢治の『やまなし』-登場する植物が暗示する隠された悲恋物語(3)-

Keywords: アイヌ語,イサド,イワテヤマナシ,カスミザクラ,カリンパ,クラムボン,オオウラジロノキ 前稿(Shimafukurou,2021b)では『やまなし』発表前後の作品に登場する植物に着目する方法で新説を裏付けることができた。後編では『やまなし』に登場…

宮沢賢治の『やまなし』-登場する植物が暗示する隠された悲恋物語(2)-

Keywords: アイヌ語,蝦夷,カゲロウの幼虫,カシワ,鬼神,コルボックル論争,クラムボン,涙ぐむ目,ニンフ(妖精),杉,スイレン属,手宮洞窟 前稿(Shimafukurou,2021a)では〈クラムボン〉の正体の解明を試みた結果,〈クラムボン〉には従来の解釈と…

宮沢賢治の『やまなし』-登場する植物が暗示する隠された悲恋物語(1)-

Keywords: 文学と植物との関わり,クラムボン,魚口星雲,二枚貝,精神分析,食物連鎖,水生昆虫,前額法 宮沢賢治の童話『やまなし』(1923.4.8)には,〈蟹〉,〈魚〉,〈鳥〉などの動物や「樺の木」や「やまなし」(第1図)などの植物が登場し,〈蟹〉…

植物の「こころ」はヒトの「こころ」を癒す

花や植物の緑を見ると,不安や緊張がほぐれて気持ちが和らぐことをしばしば経験する。ある植物研究家が,どんな花が気持ちを和らげる効果が強いかどうか調べていた。それによると,コスモス,コギク,カスミソウ,スミレなどの小さくて可憐な花にそのような…

宮沢賢治の『鹿踊りのはじまり』―植物や動物と「こころ」が通う-

植物や動物に「心」があるのかと問う前に,「心」とは何かについて考えてみる。 「心」とは何かという問いに答えるのは難しいが,解剖学者で発生学者の三木成夫(1995)によれば,「心」とは物事に感じて起こる情であり,感応とか共鳴といった心情の世界を形…

宮沢賢治と赤い点々で危険を知らせる野ばらの実

Key words;十力の金剛石,国際信号旗,野ばら 『十力の金剛石』(1921年)には王子と大臣の子の2人の少年が登場する。王子は,2人で自分の持っているルビーよりももっといい宝石を探しに森へ出かける。しかし,「サルトリイバラ」が王子の着物に鉤(かぎ…

賢治と赤く変色するリトマス試験紙

Key words:毒蛾,北守将軍と三人兄弟の医者,サルオガセ 溶液の酸性度を測る指示薬にリトマス試験紙というのがあります。青色のリトマス試験紙が赤に変色すれば酸性,逆に赤が青に変色すればアルカリです。今では殆ど使われませんが,先生の目を盗んで,身…

県立大磯城山公園周辺の希少植物

Key words:フォッサ・マグナ要素の植物,「花鳥図譜,八月,早池峰山巓」 神奈川県立大磯城山公園およびその周辺で,たくさんの自生植物や植栽植物を観察することができる。その中には,イソギク,ハコネウツギ,ガクアジサイ,オオバヤシャブシ,クゲヌマ…

山椒の意外な使い方

Key words:山椒,選択毒性 ミカン科の落葉低木である「サンショウ」(Zanthoxylum piperitum;第1図)は,香辛料の代表的なものであるが健胃剤としても有名である。漢方薬でもっとも使われるものに「大建中湯」がある。便秘あるいは術後イレウスの予防など…

「マグノリアの木」とはどんな木か

Key words:コブシ,マグノリア 宮沢賢治に『マグノリアの木』(1923年)という短編の作品がある。仏教の教えに基づいて書いたものとされている。その内容は,諒安(りょうあん)という人(お坊さん?)が霧のかかった険しい山谷を歩いていて,やっと平らな…

賢治と地質時代のシダ植物(試論)

Key words:「「春」変奏曲」,「春と修羅」,「イギリス海岸の歌」,「小岩井農場」,三木成夫,星葉木,「真空溶媒」,修羅,地質時代 賢治は,地質時代(古生代,中生代)という太古の植物や動物を扱った作品を数多く残している。中でも,『春と修羅(第…

「烏瓜のあかり」を作ってみた

大きな緑色のカラスウリの実(長さ7~8cm)を用意し,ナイフで端を切りおとす。切られた端から中身をナイフあるいは小さなスプーンで薄皮になるまで丁寧にかき出す。中身はほとんどが種で容易に取り出せる。 次に木の台座を用意し,その中心に小さな蝋燭…