宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

2021-01-01から1年間の記事一覧

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ススキと鳥を捕る人の類似点-

Key words : あってはならない感受性,文学と植物のかかわり,常不軽菩薩,雑草,厄介者 『銀河鉄道に夜』の天上に最初に登場する植物は,銀河鉄道の線路際(鉄道敷)あるいはその周辺で銀河の青白い光を浴びて銀色に光輝く「ススキ原」の「ススキ」である。…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-聖なる植物(3)-

Key Words:文学と植物のかかわり,源氏物語,法華経,河原なでしこ,くるみ,西域 前報(聖なる植物(1)(2))では,『銀河鉄道の夜』の天上に登場する植物には段階性があり,植物は「俗」から「聖」の順序で配置されていることを報告した。「聖」とし…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-聖なる植物(2)-

Key Words: 文学と植物のかかわり,Centaurea,ケンタウル祭,もみ,野ぎく,唐檜, 前報(聖なる植物(1))では,『銀河鉄道の夜』の天上に登場する植物には段階性があり,植物は「俗」から「聖」の順序で配置されていることを報告した。「聖」として登場…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-聖なる植物(1)-

Key Words: 文学と植物のかかわり,段階性,くるみ,もみ,死後の世界,唐檜,楊 『銀河鉄道の夜』の天上(幻想四次空間)を走る列車には死者が乗車してくるので,この物語は,死の向こう側の世界(死後の世界)を扱った作品といってもよい。賢治が描く死後…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ケンタウル祭の植物と黄金と紅色で彩られたリンゴ(3)

Key Words:文学と植物のかかわり,法華経,烏瓜,ケンタウル祭,区分キメラ,縞模様,真実(ほんとう),接木,融合 賢治は,童話『銀河鉄道の夜』で,「もみ」や「楢」の枝で包まれた街燈,紫色の「ケール」や「アスパラガス」が植えられている空き箱,電…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ケンタウル祭の植物と黄金と紅色で彩られたリンゴ(2)

Key Words:アスパラガス,文学と植物のかかわり,ケンタウル祭,キメラ,ケール,旧約聖書,ポプラ,プラタナス,桜の木,縞模様 賢治は,『銀河鉄道の夜』で,光に透かされた縦の「縞模様」をイメージできるものを「キメラ」やそれに類したものと重ねなが…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ケンタウル祭の植物と黄金と紅色で彩られたリンゴ(1)

Key words: 文学と植物のかかわり,ひのき,いちゐ,ケンタウル祭,楢,人魚,苹果,聖ジョバンニ祭,もみ,縞模様,七夕 これまで『銀河鉄道の夜』の天上世界(夢の中)に登場する植物を中心に解説してきたが,地上にも沢山の植物が登場してくる。特に地上…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-絹で包んだリンゴ-

Keywords : 文学と植物のかかわり,蝦夷(えみし),インディアン,郷愁,キカラスウリ,コロラド高原,新世界交響曲,種山ヶ原 童話『銀河鉄道の夜』には,「顔色」を果実の色で表現している箇所がある。日本人でキリスト教徒らしき少女(かほる)が「新世…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-リンゴと十字架(2)-

Keywords : 文学と植物のかかわり,五千起去,偽果(ぎか),川下(下流),くるみ,苹果の肉,法華経 白鳥の停車場(北十字)やサウザンクロス(南十字)の停車場の近くには「十字架」も立っていて,そこには「十字架」と共にキリスト教をイメージできる「…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-リンゴと十字架(1)-     

Keywords : 文学と植物のかかわり,かまど,苹果(りんご)のあかし,苹果の肉,成長物語 『銀河鉄道の夜』は,主人公のジョバンニとその友人のカムパネルラが夢の中を走る銀河鉄道の列車に乗って白鳥の停車場(北十字)からサウザンクロス(南十字)へ旅す…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-列車の中のリンゴと乳幼児期の記憶-

Keywords : 文学と植物のかかわり,嬰児籠(えじこ),異界,竈(かまど),原風景 『銀河鉄道の夜』(第四次稿)の中で,「リンゴ」という表現は18回登場する。内訳をいうと,「苹果」という漢字表記で15回,「りんご」という平仮名表記で3回使われている…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-仏教と異界への入り口に登場する植物-

Keywords: アスパラガス,文学と植物のかかわり,源氏物語,草木国土悉皆成仏,法華経,カラスウリ,カワラナデシコ,マツ,境木,夢の橋 童話『銀河鉄道の夜』第四次稿は,地上世界はアラビア(イスラム教)風で,天上世界(=死後の世界)はキリスト教的…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-「ほんたうのさいはひ」と瓜に飛びつく人達(2)-

Keywords: アイヌ,バチェラー八重子,文学と植物のかかわり,物質的な豊かさ,同化,義人,違星北斗,熟した苹果のあかし,精神的な豊かさ,知里幸恵,瓜 前報(石井,2019)で,賢治が童話『銀河鉄道の夜』を執筆していた頃,「アイヌ」の「滅びゆく民族」…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-「ほんたうのさいはひ」と瓜に飛びつく人達(1)-

Keywords:アイヌ,文学と植物のかかわり,同化,鴈シャモ,違星北斗,カワラハハコ,知里幸恵,鳥の押し葉,瓜 前報(石井,2019)で,稲作主体の農耕文化と接触する以前の「東北」に在住した狩猟採集民である「古代蝦夷(エミシ)」が,「アイヌ」の人達と…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-アワとジョバンニの故郷(2)-

Keywords: アイヌ,文学と植物のかかわり,エミシ,慈悲心鳥,縄文人,ヒノキとヒバ,いじめ,クジラ,まっくらな巨きなものの正体,サガレン,先住民 前報(石井,2019b)で,活版所の技術者達がジョバンニの粟粒のような活字を「ピンセット」で拾う動作に…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-アワとジョバンニの故郷(1)-

Keywords: アイヌ神謡集,粟,文学と植物のかかわり,文選作業,蝦夷(エミシ), まっくらな巨きなもの,ピパ,ピンセットで活字を拾う,先住民 童話『銀河鉄道の夜』は難解とされているが,この物語に登場する人物を賢治が生きた時代の実在の人物に当ては…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-イチョウと二人の男の子-

Keywords: 文学と植物のかかわり,双子性,ギリシャ神話,白鳥座,イチョウの生殖様式,出自の秘密,チュンセ童子とポウセ童子 童話『銀河鉄道の夜』は,「ほんたうのさいはひ」を求めて壮大な銀河宇宙を旅する物語である。最近,賢治に悲恋に終わった相思相…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-リンドウの花と母への強い思い-

Keywords:文学と植物のかかわり,ニワトコ,乳幼児期,リンドウ,リンゴ,精神分析学,夢判断 『農民芸術概論綱要』の中に「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という有名な語句が記載されている。賢治の作品には「自分の幸せ」よ…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ケヤキのような姿勢の青年(2)-

Keywords:文学と植物のかかわり,移住者,先住民,スギ,タイタニック号遭難, 東北,槻(つき),大和朝廷 前報では「ケヤキ」がなぜ「大和朝廷」を象徴するようになったのかの理由について説明した。本稿では,賢治が「移住者」を象徴する「ケヤキ」を童話…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ケヤキのような姿勢の青年(1)-

Keywords:文学と植物のかかわり,移住者,まっくらな巨きなもの,先住民,スギ,東北,槻(つき),大和朝廷 『銀河鉄道の夜』の初期形第一次稿(1924冬)の出だしに登場するのは「橄欖(かんらん)の森」である。この「橄欖の森」には物語の舞台が北米大陸…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-カムパネルラの恋(3)-

Keywords: アイヌ神謡集,バルドラの野原,文学と植物のかかわり,カーバイド,化石,蠍の火,先住民,炭酸石灰,ウミサソリ,楊(やなぎ) 本稿(2)に続けて童話『銀河鉄道の夜』がいかにして生まれたかについて,この物語に登場する「バルドラの野原の一…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-カムパネルラの恋(2)-

Keywords: アイヌ神謡集,文学と植物のかかわり,インディアン,絹で包んだリンゴ,高原,涙ぐむ眼,先住民,種山ヶ原 童話『銀河鉄道の夜』の初期形第一次稿は,四次稿の4分の1程度の長さの物語であり,大きく分けると「橄欖の森」,「高原のインディアン…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-カンパネルラの恋(1)-

Keywords : アイヌ神謡集,アイリス,文学と植物のかかわり,蛇紋岩,橄欖(かんらん)の森,ミズバショウ,先住民,スギ,種山ヶ原,ヤマザクラ 賢治は,童話『銀河鉄道の夜』の中で「ほんたうにみんなの幸せのためなら僕のからだなんか百ぺん灼(や)いて…

植物から『銀河鉄道の夜』の謎を読み解く(総集編Ⅴ)-なぜカムパネルラは自分を犠牲にしてザネリを救ったのか-

Keywords: 赤い腕木の電信柱,文学と植物のかかわり,蝦夷,ヒバ,薤露青(かいろせい),鬼神,くじら,まっくらな巨きなもの,澪標(みおつくし),石炭袋 本稿では,総集編Ⅲと総集編Ⅳに引き続き植物によって解き明かされた難解な用語について総説する。 …

植物から『銀河鉄道の夜』の謎を読み解く(総集編Ⅳ)-橄欖の森とカムパネルラの恋-

Keywords: 赤い実,粟粒ぐらいの活字,文学と植物のかかわり,蝦夷,イチョウ,薤露青,ケヤキ,リンドウ,スギ,渡り鳥の信号手 本稿では,総集編Ⅲに引き続き,植物によって解き明かされた難解な用語について総説する。また,詩集『春と修羅 第二集』の「…

植物から『銀河鉄道の夜』の謎を読み解く(総集編Ⅲ)-天気輪の柱と三角標-

Keywords: 赤い点々を打った測量旗,アスパラガス,文学と植物のかかわり,五輪塔,河原なでしこ,かはらははこぐさ,絹で包んだ苹果,にはとこのやぶ,鳥の押し葉,鳥を捕る人,瓜に飛びつく人達, 童話『銀河鉄道の夜』は,「ほんたうのさいはひ」が何か…

植物から『銀河鉄道の夜』の謎を読み解く(総集編Ⅱ)-リンゴの中を走る汽車-

Keywords: 文学と植物のかかわり,臨死体験,鉄の船,宙に浮く汽車,夢の橋 童話『銀河鉄道の夜』(第一次~第四次稿)に登場する汽車は宙に浮いて銀河の中を走る。このファンタスチックな夢の中の汽車には「リンゴ」の匂いも漂っている。本稿では,なぜ宙…

植物から『銀河鉄道の夜』の謎を読み解く(総集編Ⅰ)-宗教と科学の一致を目指す-

Keywords: 文学と植物のかかわり,ほんたうの考え・うその考え,移住者,烏瓜のあかり,みんなのほんたうのさいはひ,もみや楢で包まれた街燈,理想の農業,先住民,進化論,神話,唯物史観 童話『銀河鉄道の夜』には30種程の植物(第1図)が登場するが,…

宮沢賢治の『ひのきとひなげし』に登場する葵の花壇は『源氏物語』を参考にしている

賢治の童話『ひのきとひなげし』(最終形)は,美を競って「スター」に成りたがっている〈ひなげし〉が自分たちの大切な「亜片」(阿片あるいはアヘンのこと)を悪魔に騙(だま)し取られそうになる物語である。〈ひなげし〉は〈ひのき〉によって危うく難を…

湘南四季の花-Winter-

茅ヶ崎海岸(えぼし岩) 早春の植物を含む 1.オオイヌノフグリ (オオバコ科) 地上の星 早春,道路わきの陽だまりなどで瑠璃色の美しい花を咲かせ,我々の目を楽しませてくれるのが「オオイヌノフグリ」だ。花は直径8ミリほどだが,その形と色から「星の…