宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

2022-01-01から1年間の記事一覧

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか(第4稿)-蝦夷との関係-

本稿では「アイヌ」と「東北」の「先住民」である「蝦夷」の関係について述べる。 6.東北の「アイヌ」は「蝦夷」のこと 木村東吉(1994)によれば,詩〔日はトパースのかけらをそゝぎ〕の舞台は第3稿で述べたように花巻の西の郊外,山の神・熊堂付近にあ…

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか (第3稿)-鬼神との関係-

第1稿と第2稿で,〈土神〉は神道で言われている土地を守護する「地主神」(あるいは「産土の神」)であり,また人間のような姿・形を有しているので「アイヌ」の神や祟り神や天邪鬼の要素を併せ持つ「鬼神」である可能性について述べた。本稿では引き続き…

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか (第2稿)-土神の棲む祠の近くにある植物との関係-

賢治作品で難解な用語あるいは正体が不明なものが在る場合,近くに配置されている植物がなぜ登場してくるのか調べることによって明らかになる場合が少なくない(石井,2020)。〈土神〉の棲む「祠」近くには沢山の植物がある。苔,からくさ,短い蘆,あざみ…

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか (第1稿)-記紀神話,神道,アイヌ神との関係-

寓話『土神ときつね』に登場する土神とはどんな神なのか 目次 第1稿-記紀神話,神道,アイヌの神との関係- はじめに 1.物語の舞台と時代および〈土神〉の性格 2.〈土神〉は土地を守護する地主神である 1)記紀神話や神道に登場する土の神 2)アイヌ…

童話『氷河鼠の毛皮』考 (4) -先住していた者たちの止むに止まれない反感-

物語の後半部で間諜(スパイ)の〈痩せた赤ひげ〉によって誘導された20人ほどの〈熊のやうな人たち〉が列車に乗り込んでくる。本稿では,この〈熊のやうな人たち〉が何の目的で〈タイチ〉を連れだそうとしたのかについて考察する。 〈熊のような人たち〉は〈…

童話『氷河鼠の毛皮』考 (3) -熊のやうな人たちとは何者か-

物語の後半部で間諜(スパイ)の〈痩せた赤ひげ〉によって誘導された20人ほどの〈熊のやうな人たち〉が列車に乗り込んでくる。本稿では,この〈熊のやうな人たち〉が誰かについて考察する。 〈熊のような人たち〉が列車に乗り込んでくる場面は以下の通り。 …

童話『氷河鼠の毛皮』考 (2) -タイチとは何者か-

この物語は〈船乗りの青年〉と〈月〉との悲恋物語を主要テーマにしているのではない。この物語の主人公は〈タイチ〉である。本稿では,〈タイチ〉が何者で,〈船乗りの青年〉とどのような関係があるのかを考察する。 最初に結論を述べる。〈タイチ〉のモデル…

童話『氷河鼠の毛皮』考 (1) -青年はなぜ月に話かけているのか-

童話『氷河鼠の毛皮』は,大正12(1923)年4月15日に地方紙である岩手毎日新聞の三面に掲載されたものである。この童話はイーハトヴ発ベーリング行きの最大急行列車の車内で〈タイチ〉という裕福な紳士が〈熊のやうな人たち〉に襲われるが,その列車内に偶…

童話『やまなし』考 -クラムボンは笑った,そして恋は終わった-

キーワード : 誤解,ぷかぷか,かぷかぷ,失笑,嘲笑 童話『やまなし』は地方紙の岩手毎日新聞に大正12(1923)年4月8日に掲載されたものである。「クラムボンはわらつたよ。クラムボンはかぷかぷわらつたよ。・・・」と「アイヌ」の叙事詩ユーカラのような…

シグナルとシグナレスの反対された結婚 (3) -本線シグナル附きの電信柱とは何者か-

キーワード:安楽行品第十四,法華経,普賢菩薩 澤口(2010)は〈本線シグナル附きの電信柱〉(=太っちょの電信柱)が何者かについては言及していない。米地(2016)も「最も矛盾に満ちた不自然な性格」であり「該当者不明」としている。しかし,この電信柱…

シグナルとシグナレスの反対された結婚 (2) -実在した人物に対応させることができるか-

キーワード: 移住者,先住民,出自 前稿で〈本線シグナル附き電信柱〉が激怒して2人の結婚に反対した理由について,特に反対のきっかけになったことを中心に話した。本稿では,賢治が生きた時代に〈シグナル〉と〈シグナレス〉のキャラクターに当てはまる…

シグナルとシグナレスの反対された結婚 (1) -そのきっかけはシグナレスが笑ったから-

キーワード: エルサレムアーティチョーク,失笑,嘲笑 童話『シグナルとシグナレス』は大正12(1923)年5月11日~23日にかけて岩手毎日新聞に掲載されたものである。タイトルにある〈シグナル〉は,本線側の金属製で電燈と信号腕木が付いた新式の信号機のこ…

自分よりも他人の幸せを優先する宮沢賢治 (3)-それによって築いたものは蜃気楼にすぎなかったのか-

本稿は,法華経をもとに創作したたくさんの童話あるいは菩薩行が賢治にとって満足できるものであったのかを問いたい。 法華経に陶酔した賢治は,大正9年(1920)に純正日蓮主義を主張する田中智学により創設された「国柱会」の信行部に入会する。その後,賢…

自分よりも他人の幸せを優先する宮沢賢治 (2)-法華経との出会いと感動した理由-

寂しかった賢治は,幼い頃に聞いた「ひとというものはひとのために何かしてあげるために生まれてきたのス」という母の言葉,すなわち母が望む「人の役に立つことをする」にはどうすればよいのかということを長い間模索していたと思われる。そして,賢治は仏…

自分よりも他人の幸せを優先する宮沢賢治 (1)-性格形成に影響を及ぼした母の言葉- 

賢治は,自分よりも他人の幸せを優先するという性格を有している。この性格は幼い頃から持っていたようで,18歳で島地大等編纂の『漢和対照妙法蓮華経』を読んで感動し,やがて法華経の世界にのめり込んでいく。賢治は,法華経の教えを童話の形にした作品を…