宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

2025-01-01から1年間の記事一覧

なぜ死に直面して創った詩「眼にて云ふ」の語り手は冷静でいられたのか

詩「眼にて云ふ」は,賢治の死後,倉庫の下づみの反古の中から発見されたものである。この詩は『群像』昭和21年10月創刊号に「眼にて言ふ(遺稿)」というタイトルで掲載された。この詩に魂が体を離れてしまう体外離脱に類似した心性が見られる。 だめでせう…

ASDの人に解離の症状が認められることがある,賢治にもあったか

解離性障害とは,「意識,記憶,同一性,または周囲の知覚についての,通常は統合されている機能の破綻」と定義され,解離性健忘,解離性遁走,離人症性障害,解離性同一障害などの代表的な解離性障害と,それらに特定できない「特定不能の解離性障害」に分…

詩「恋と病熱」の結びの言葉「やなぎの花もとらない」は恋を正当化するもの(試論)

「やなぎの花もとらない」は以下の詩「恋と病熱」(1922.3.20)の結びの言葉である。 けふはぼくのたましひは疾み/烏(からす)さへ正視ができない/あいつはちやうどいまごろから/つめたい青銅(ブロンヅ)の病室で/透明薔薇(ばら)の火に燃される/…

詩「恋と病熱」の「烏さへ正視ができない」とは何か(試論)

詩集『春と修羅』の「恋と病熱」(1922.3.20)は「けふはぼくのたましひは疾み/烏(からす)さへ正視ができない」(宮沢,1985)で始まる。多分,この最初の詩句は,ある女性を好きになってしまったので魂が病み「カラス」を正視できないという意味であろ…

ASDの人は難しい言葉を使う傾向がある,賢治もそうか

自閉スペクトラム症(ASD)の人は話すときに,小説に出てくるなど,主に書き言葉で使ったり台詞で使われたりする難しい言葉を使う傾向があるという。例えば,「この仕事の私の流儀は課業を順番に処理していくことです」とか,「日々温故知新で業務に取り組ん…

賢治は相手と目を合わせるのが苦手だったのか

自閉スペクトラム症(ASD)の人は,相手と視線が合わせることが少なく,そのために,視線を手がかりにして相手の意図を読み取りスムーズに会話するのが困難な人が多いとされている。ただ,目を合わせるというのを客観的に表現するのは難しい。近年,視線計測…

幼少期の賢治に発達の偏りはあったのか

大人の発達障害は,幼少期から何らかの発達の偏り(発達障害)があり,大人になってからその特性が顕在化し,社会生活で困難を感じるようになった状態を指す。つまり,発達障害は先天的なものであり,発達障害の診断においては「発達早期から症状が存在」し…

ASDの人は叱責に弱く自信喪失になりやすいが論理的思考で立ち直ることもできる

自閉スペクトラム症(ASD)の人は叱責に弱いという傾向があり,またそのことが原因で,二次的に不安障害やうつ病などの精神疾患を発症することがあるとされる。これらの精神疾患は,自信の喪失や意欲の低下を引き起こし,弱気な行動につながることもあるとい…

ASDの人に現れやすい反芻思考,賢治にもあったか

自閉スペクトラム症(ASD)の人に現れやすいものとして反芻思考(はんすうしこう)がある。反芻思考とは,「ぐるぐる思考」とも呼ばれ叱責されたなどネガティブな出来事を繰り返し思い出して悩んでしまう考え方のことである。 ASD的な資質をもつ賢治にもこの…

信仰と科学の一致,アインシュタインと賢治の場合

アインシュタイン(Albert Einstein;1879~1955)はドイツ生まれの理論物理学者であるが,アスペルガー症候群(現在のASD)の傾向を有していたとされている。5歳までほとんど話すことが出来ず,読み書きが苦手で,数学以外のことにはあまり関心を示さなかっ…

賢治はなぜ口語詩や童話に日付をつけるのか,ASD的な記憶の仕方の関与

生前刊行の詩集『春と修羅』第一集と短編集『注文の多い料理店』には,いずれも目次で収録作品の全ての題名の下に日付が付いている。その後の,未発表詩の下書稿の多くにも,かなりの童話原稿にも日付が付いている。現場で手帳などにメモか走り書きした日付…

賢治は疲れやすい人だった

自閉スペクトラム症(ASD)の人は,定型発達の人が無意識にやっていることにエネルギーを使ってしまうため定型発達の人よりも疲れやすいと言われている。実際に普通の生活を送っていても疲れやすいと感じている人は多い。 理由としていくつかの事が考えられ…

賢治は初めての環境や慣れない場にいることが苦手であった

自閉スペクトラム症(ASD)の人は初めての環境や慣れない場にいることが苦痛であるとされている。ASD的資質を持つ賢治にもそのような傾向があったように思える。 賢治は大正10年(1921)12月に花巻農学校の教師となった。しかし,就職してしばらくの間は仕事…

ASDの人の「静かなパニック」,賢治も叱責されると黙ることがあったのか

自閉スペクトラム症(ASD)の人は,叱責に弱く,些細なことでも深刻に受け止めてしまうことがある。強く叱責されると泣き叫ぶ人もいるようだが黙ってしまう人も少なくない。ネットでフリーズしてしまう当事者の人が「本当はパニックに近い状態であるにも関わ…

ASDの人は独り言が多い,賢治もそうか

自閉スペクトラム症(ASD)の人は「独り言」が多くなる傾向があると言われている。周囲を気にする様子もなくいつもブツブツ何かを言っている,話している話題と違う内容のことを突然口にする,あるいは卑猥な言葉が口に出てしまうなど,周囲からすれば驚いた…

ASDの人は周囲に合わせるために気を使いすぎる傾向がある,賢治もそうか

自閉スペクトラム症(ASD)の人は,周囲に合わせるために気を使いすぎる傾向がある。一見周りに溶け込んでいるように見えても,実は大きなストレスを抱えているケースは少なくないとされる(LUMO,2024)。これらは,学術的には「過剰適応」と呼ばれているも…

賢治は感情とくに怒りをコントロールするのが苦手であった

「怒り」は典型的な情動の一つで,他者による妨害,傷害,おどしなどの行為によって生じる。相手を攻撃しようとする行動傾向のほかに,特有の顔面表情や自律神経系の各種の反応を伴う。「怒り」は,欲求不満によって生じやすくなり,また憤怒は,怒りが自制…

ASDの人は悪意がないのに相手を怒らせてしまうことがある,賢治もそうか

自閉スペクトラム症(ASD)の人はこだわりが強く,相手の顔の表情などから感情を読み取ることが苦手で,自分の思っていることをストレートに言ってしまうことがあるので,悪意がないにもかかわらず相手を怒らせてしまうことがある。例えば,相手の容姿や体型…

ASDの人は光や砂や水が好き,つまり植物のようだ,賢治もそうか

自閉スペクトラム症(ASD)の特性をもつ東田直樹の著書に植物に関して以下のような記載がある。 自閉症者が光や砂,水が好きなことはよく知られています。僕は,自閉症者には,植物と同じような遺伝子が組み込まれているのではないかと思っています。植物は…

因果交流電燈の青い照明はASD的思考と関係する

詩集『春と修羅』の「序」(1924.1.20)の出だしは,「わたくしといふ現象は/仮定された有機交流電燈の/ひとつの青い照明です/(あらゆる透明な幽霊の複合体)/風景やみんなといつしよに/せはしくせはしく明滅しながら/いかにもたしかにともりつづけ…

賢治は雲からレモンの匂いを感じることができる

詩集『春と修羅』(第二集)の「早池峰山巓」(1924.8.17)にミカン科のレモンの匂いが登場する。賢治が農学校の教師時代に詠ったものである。 「・・・九旬にあまる旱天(ひでり)つゞきの焦燥や/夏蚕飼育の辛苦を了へて/よろこびと寒さとに泣くやうにし…

賢治の感覚過敏,特にバラ科の植物の「匂い」に敏感(2)

バラ科リンゴ属のリンゴ(苹果;Malus domestica)の果実の匂いも賢治作品にはたくさん登場する。ただし,多くは「幻嗅」である。 詩集『春と修羅』(第一集)の「靑森挽歌」(1923.8.1)に「・・・半月の噴いた瓦斯でいつぱいだ/巻積雲のはらわたまで/…

賢治の感覚過敏,特にバラ科の植物の「匂い」に敏感(1)

自閉スペクトラム症(ASD)の特性の一つとして感覚過敏がある。特定の感覚の刺激を過剰に強く感じてしまうことである。賢治はとくに「匂い」に過敏であると思われる。医師で親友でもある佐藤隆房(2000)の著書に花巻農学校教師時代の感覚過敏に関するエピソ…

米津玄師は泣いている人に独特な匂いを感じる,賢治はどうか

シンガーソングライターである米津玄師(1991~)は,以前「泣いてる人って独特の匂いがするんだけど,誰に言っても共感してくれない。」(2012.2.7)とツイートしていた。泣いている人の「涙」から匂い物質でも発散していたのであろうか。しかし,血液の…

賢治の「共感覚」の世界,ASD的資質との関係 

「共感覚」(シナスタジア)とは,ある感覚刺激を受けたときに,別の感覚が引き起こされる現象のことである。「共感覚」は五感のような感覚だけではなく,感情や単語や数などに関して起こることもある。文字に色を感じたり,音に色を感じたり,味や匂いに,…

賢治が多用するオノマトペ(擬音)はASD的な資質と関係があるのか

賢治は,作品にたくさんのオノマトペ(擬音)を入れることで知られている。童話『十力の金剛石』(1921 or 1922)でも,天然物,動物,植物とさまざまな物に擬音が使われている。普通,物が動くとき音を発する。時計が時を刻むとき,実際そのように聞こえる…

推敲魔である賢治,ASD的な資質の関与

賢治は推敲魔(すいこうま)として知られている。例えば,長詩である「小岩井農場」(8082字)は詩集『春と修羅』の目次にある日付大正11年(1922)年5月21日に心象スケッチしたものを基に創作されたものであるが,詩集として発表する日である大正13年(1924…

賢治の行動と衣食に関しての「こだわり」

自閉スペクトラム症(ASD)を持つ人の基本的な症状として,強い「こだわり」がある。特定の物や場所,活動などへの強い「執着」や,パターン化された行動への「こだわり」を指す。 理由の一つとしてASDの人は,「同一性保持の欲求」と呼ばれる,変わらないこ…

賢治はボールを使った運動が苦手,多分マルチタスクも

発達障害は主として自閉スペクトラム症(ASD),注意欠如多動症(ADHD),学習障害(LD)の3つがよく知られているが,これらとよく合併するものとして「発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder ;DCD)」というのがある。DCDは運動の苦手さ…

賢治の恋人はカサンドラ症候群のような状態になったのだろうか

カサンドラ症候群とは,病名ではなく,自閉スペクトラム症(ASD)の人とのコミュニケーションや情緒的な関係が築けないことによって,身近な人,とくにそのパートナーが「抑うつ」や「不安」などの心身の不調をきたす状態とされている。真面目で優しく,自己…