宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

「カラスウリ」は童話『銀河鉄道の夜』を象徴する植物である

童話『銀河鉄道の夜』には「烏瓜のあかり」が繰り返し登場してくる。この「烏瓜のあかり」に使われる「カラスウリ」(ウリ科;Trichosanthes cucumeroides Maxim.)は,第1図に示すように花が日没後に開花することや,蔓が上方に伸びることで地上と天上を結ぶものとして物語に象徴的に登場してくる(石井,2021)。「カラスウリ」は,どのくらい高く伸びるのだろうか。ネットで調べたら3mを超えるものもあるという。

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第1図.カラスウリの花

 

「カラスウリ」には,さらにこの物語に相応しい特徴をもつ。それは,繁殖方法である。「カラスウリ」は雌雄異株の多年草で普通種子や塊根(芋)によって増えるが,もう1つユニークな増え方をする。科学教育学者・真船和夫さん(1997)によると,「カラスウリ」は夏の間に地上から巻きひげで他の樹木などに絡みつき上方に伸びていくが,秋になると蔓が方向を変えて地面に向かって伸び,地表に触れるとそこから発根し,新しい塊根(栄養繁殖)を作ることができるとある。

 

すなわち,「カラスウリ」は,地上から芽を出して上方に向かって伸びて行き花を咲かせ,果実を実らせるのと同時に,絡みつくものがなくなると逆に地面に戻ってきて地中に次の命へとつなぐ栄養豊かな芋を作っている。不思議な植物であるが,このような増え方をするのは「カラスウリ」だけなのだろうか。

 

花を咲かせたあと,地上に戻ってきて地中に次の命をつなぐものがカラスウリ以外にもある。我々がよく食にするラッカセイ(落花生)である。ラッカセイは初夏に黄色の花を咲かせるが,実は地上部にはできない。花が終わったあと,子房(果実になる部分)の付け根の子房柄(しぼうへい)といわれる部分が地面に向かって伸び,地中に潜り込んでそこで結実する。地中結実性は,ヤブマメやスミレの仲間などにも見られるという(丸尾,2021)。ただし,ラッカセイは子房柄が地面に向かって伸びることはあっても,蔓性植物である「カラスウリ」のように「地」から「天」へ向かって高く伸びていくことはない。ヤブマメも2mほどだという。

 

「地」から「天」に向かって高く上り夜に花を咲かせ,また「地」へ戻るサイクルを繰り返す「カラスウリ」は,「地」を「この世」,「天」を「あの世」あるいは「虚空」とすれば仏教思想の「輪廻転生」や「二処三会(にしょさんえ)」を彷彿させるものであり,「二処三会」の構成からなる「法華経」の影響を色濃く反映させた童話『銀河鉄道の夜』に相応しい植物と言えそうである。

 

参考文献

石井竹夫.2021.「烏瓜のあかり」とは何か.https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/07/13/085125

真船和夫(著)・下田智美(イラスト).1997.カラスウリのひみつ.偕成社.東京.

丸尾 達.2021(調べた日付).ラッカセイはどうして土に潜るの?https://www.kodomonokagaku.com/read/hatena/5192/

 

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「カラスウリ」と「法華経」の「二処三会」の関係については以下のブログ記事に詳細に説明している。

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-仏教と異界への入り口に登場する植物-https://shimafukurou.hatenablog.com/entry/2021/06/17/103821

2021.10.1(投稿日)