宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

童話『やまなし』考 -なぜ十二月にしか出てこない「やまなし」が題名になっているのか-

宮沢賢治の『やまなし』は昭和46年(1971)版(『小学新国語六年上』)に掲載されて以来今日まで国語教材として使われてきた。国語教材の「てびき」の平成17年版と平成27年版に「なぜ,十二月にしか出てこない「やまなし」が題名になっているのだろう。理由…

童話『やまなし』になぜ蟹が登場するのか明らかにする(第3稿)-童話『二十六夜』との関連から-

童話『やまなし』が「仇討ち」を重要なテーマにしているという私の推測は,童話『やまなし』と同時期に書かれ,同じく「仇討ち」がテーマになっている童話『二十六夜』(1922 or 1923)を読むことで確実なものになってくる。童話『二十六夜』には小鳥や田螺…

童話『やまなし』になぜ蟹が登場するのか明らかにする(第2稿)-ガドルフが背負う蟹の形をした背嚢から-

前稿(石井,2023)で賢治が投影されている移入種の〈魚〉と恋人が投影されている谷川に先住する〈クラムボン〉の結婚が反対された「ほんとう」の理由は,遠い過去の大和朝廷やそれに続く中央政権と東北人の歴史的対立が関係しているかもしれないということ…

童話『やまなし』になぜ蟹が登場するのか明らかにする(第1稿)-芥川龍之介の『猿蟹合戦』との関連から-

童話『やまなし』のもともとの題名は『蟹』であったとされる。童話『ひのきとひなげし』(初期形)表紙余白に「童話的構図 ①蟹,②ひのきとひなげし,③いてふの実,④ダアリアとまなづる・・・・・」と,また童話『青木大学士の野宿』第七葉裏に「ポランの広場…

童話『やまなし』考-蟹の母が子の行動に対して禁止したもの(試論 第2稿)-

前稿で,タネリが「南」の空を「くらげ」の「めがね」で透かして見たものは大都会東京やアメリカのシカゴ,ニューヨークのような伝統が破壊され自由を謳歌できる世界であり,「悪いもの」とは「南」にある別の世界であることを述べた。しかし,「くらげ」の…

童話『やまなし』考-蟹の母が子の行動に対して禁止したもの(試論 第1稿)-

童話『やまなし』(1923.4.8)に登場する〈蟹〉は父親と兄弟の子供しか登場しない。1971年に宮沢賢治研究会の例会で,なぜ母親が出てこないのかについて健在説,一時的不在説,入院説,死亡説という4つの見解が出され議論されていた(福島,1971)。私は…

童話『やまなし』考 -冬のスケッチ(創作メモ)にある「みずのそこのまことはかなし」とはどういう意味か (第2稿)-

恋人のことを少しでも知ろうとするには賢治の作品を読み解いていくしかない。恋人との悲恋物語は寓話『シグナルとシグナレス』の〈シグナル〉と〈シグナレス〉の恋として語られているということはすでに述べた(石井,2022a)。しかし,これだけではない。寓…