宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ドングリ問答-いちばんえらいのは-

ドングリって何ですか イメージ的には小さくて,丸っこくて,しかも先が尖っていて,堅い殻をもつ木の実です。生物学の本でも諸説があって混乱しています。環境省自然保護局生物多様センターの定義では,ブナ科のコナラ属,シイ属,マテバシイ属の果実を総称…

なぜ人は食べもしないドングリを拾うのか(試論)

秋も深まったころ,県立大磯城山公園内の草地を散策していたら,多数の家族連れが2~3本のシラカシの木の下で一生けんめい地面に落ちた「ドングリ」を拾っているのを見かけた。中には,子供たちと一緒に大人も夢中になって拾っていた。城山公園にはコナラ,…

ガラスマントの宅急便-ヤシの謎-(試論)

賢治の童話『風野又三郎』(1924年2月12日以前の作)は,いきなり何の前触れもなく「九月一日 どっどどどどうど どどうど どどう」という風の音の擬音で始まる。この作品に登場する「又三郎」は,「ガラスのマント」と透きとおる「沓(くつ)」を履いて空を…

リンドウの花は「サァン,ツァン,サァン,ツァン」と踊りだす

賢治は,作品にたくさんの擬音(オノマトペの一種)を入れることで知られている。童話『十力の金剛石』でも,天然物,動物,植物とさまざまな物に擬音が使われている。普通,物が動くとき音を発する。時計が時を刻むとき,実際そのように聞こえるかどうかは…

宮沢賢治の『やまなし』-登場する植物が暗示する隠された悲恋物語(3)-

Keywords: アイヌ語,イサド,イワテヤマナシ,カスミザクラ,カリンパ,クラムボン,オオウラジロノキ 前稿(Shimafukurou,2021b)では『やまなし』発表前後の作品に登場する植物に着目する方法で新説を裏付けることができた。後編では『やまなし』に登場…

宮沢賢治の『やまなし』-登場する植物が暗示する隠された悲恋物語(2)-

Keywords: アイヌ語,蝦夷,カゲロウの幼虫,カシワ,鬼神,コルボックル論争,クラムボン,涙ぐむ目,ニンフ(妖精),杉,スイレン属,手宮洞窟 前稿(Shimafukurou,2021a)では〈クラムボン〉の正体の解明を試みた結果,〈クラムボン〉には従来の解釈と…

宮沢賢治の『やまなし』-登場する植物が暗示する隠された悲恋物語(1)-

Keywords: 文学と植物との関わり,クラムボン,魚口星雲,二枚貝,精神分析,食物連鎖,水生昆虫,前額法 宮沢賢治の童話『やまなし』(1923.4.8)には,〈蟹〉,〈魚〉,〈鳥〉などの動物や「樺の木」や「やまなし」(第1図)などの植物が登場し,〈蟹〉…

植物の「こころ」はヒトの「こころ」を癒す

花や植物の緑を見ると,不安や緊張がほぐれて気持ちが和らぐことをしばしば経験する。ある植物研究家が,どんな花が気持ちを和らげる効果が強いかどうか調べていた。それによると,コスモス,コギク,カスミソウ,スミレなどの小さくて可憐な花にそのような…

宮沢賢治の『鹿踊りのはじまり』―植物や動物と「こころ」が通う-

植物や動物に「心」があるのかと問う前に,「心」とは何かについて考えてみる。 「心」とは何かという問いに答えるのは難しいが,解剖学者で発生学者の三木成夫(1995)によれば,「心」とは物事に感じて起こる情であり,感応とか共鳴といった心情の世界を形…