宮沢賢治と橄欖の森

賢治作品に登場する植物を研究するブログです

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-楊と炎の風景(2)-

Key words:文学と植物のかかわり,父と子の対立,農民芸術,三角標,蝎 『銀河鉄道の夜』にはたくさんの「三角標」が登場してくるが,それぞれの「三角標」に対するイメージは,物語の場面で異なる(石井,2014)。地上にある時計屋の星座早見を飾っていた…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-楊と炎の風景(1)-

Key words:アスペン,文学と植物のかかわり,パルプ工場,三角標,蝎,楊 『銀河鉄道の夜』の中で「蝎(さそり)」の「まっ赤な火」(「蝎」の逸話 )と「楊(やなぎ)の木」が一緒に登場する場面は,物語の最大の山場であり核心部分である。「楊の木」は,…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-赤い実と悲劇的風景(2)-

Key words:文学と植物のかかわり,橄欖(かんらん)の森, G.マーラー,リンゴ,聖書,タイタニック号遭難 前稿では,童話『銀河鉄道の夜』の九章「ジョバンニの切符」で登場してくる「橄欖の森」の「まっ赤に光る円い実(赤い実)」を便宜的に「リンゴの実…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-赤い実と悲劇的風景(1)-

Key words: 文学と植物のかかわり,瞳,橄欖(かんらん)の森, リンゴ,三角標,聖書 『銀河鉄道の夜』は,夢の中で主人公のジョバンニと水死したカムパネルラが銀河鉄道の列車に乗って天上(死後の世界)を旅する物語である。最初に到着する天の野原には,…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-光り輝くススキと絵画的風景(2)-

Key words: 文学と植物のかかわり,補色,リンドウ,三角点,芝草,色彩 童話『銀河鉄道の夜』において,ジョバンニたちが最初に到着する天の野原は,天上世界の中では最も美しい場所である。本稿は,前稿に引き続き,天の野原に登場する光輝く植物(ススキ…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-光り輝くススキと絵画的風景(1)-

Key words: 文学と植物のかかわり,逆光,ホイッスラー,ススキ,ターナー 『銀河鉄道の夜』では,夢の中でジョバンニとカムパネルラが黒い丘から銀河鉄道の列車に乗り込んで天上世界に旅立つ。最初に到着する天の野原には,紫色の細かな波をたてたり虹のよ…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-星座早見を飾るアスパラガスの葉(2)-

Key words:文学と植物のかかわり,ほんとうの葉(鱗片葉),偽りの葉(仮葉枝),三角標,きのこ 前稿に続き,星座早見を飾るアスパラガスの葉が,観賞種であるアスパラガス属の「仮葉枝」ではなく,食用のアスパラガスの「三角形の鱗片葉」であるという私…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-星座早見を飾るアスパラガスの葉(1)-

Key words:アスパラガス,文学と植物のかかわり,ほんとうの葉(鱗片葉),偽りの葉(仮葉枝),三角形,星座早見,真果,偽果,トマト,リンゴ 『銀河鉄道の夜(四次稿)』四章の「ケンタウル祭の夜」に「青いアスパラガスの葉」が登場する。主人公のジョ…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-クルミの実の化石(2)-

Key words: 文学と植物のかかわり,ほんとうのこと,かはらははこぐさ,押し葉,プレシオスの鎖,曼荼羅 前報では,ジョバンニたちが化石発掘現場で拾った「くるみの実」の化石がオオバタグルミであった可能性について言及した。本稿では,なぜ化石の発掘現…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-クルミの実の化石(1)-

Key words::文学と植物のかかわり,バタグルミ,第三紀鮮新世泥岩層,プリオシン海岸 『銀河鉄道の夜』の第三次稿(1925年秋以降~1926年頃)と第四次稿(1931~1932年頃;最終稿)の七章「北十字とプリオシン海岸」で,天上を旅するジョバンニとカムパネル…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ススキと鳥を捕る人の類似点-

Key words : あってはならない感受性,文学と植物のかかわり,常不軽菩薩,雑草,厄介者 『銀河鉄道に夜』の天上に最初に登場する植物は,銀河鉄道の線路際(鉄道敷)あるいはその周辺で銀河の青白い光を浴びて銀色に光輝く「ススキ原」の「ススキ」である。…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-聖なる植物(3)-

Key Words:文学と植物のかかわり,源氏物語,法華経,河原なでしこ,くるみ,西域 前報(聖なる植物(1)(2))では,『銀河鉄道の夜』の天上に登場する植物には段階性があり,植物は「俗」から「聖」の順序で配置されていることを報告した。「聖」とし…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-聖なる植物(2)-

Key Words: 文学と植物のかかわり,Centaurea,ケンタウル祭,もみ,野ぎく,唐檜, 前報(聖なる植物(1))では,『銀河鉄道の夜』の天上に登場する植物には段階性があり,植物は「俗」から「聖」の順序で配置されていることを報告した。「聖」として登場…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-聖なる植物(1)-

Key Words: 文学と植物のかかわり,段階性,くるみ,もみ,死後の世界,唐檜,楊 『銀河鉄道の夜』の天上(幻想四次空間)を走る列車には死者が乗車してくるので,この物語は,死の向こう側の世界(死後の世界)を扱った作品といってもよい。賢治が描く死後…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ケンタウル祭の植物と黄金と紅色で彩られたリンゴ(3)

Key Words:文学と植物のかかわり,法華経,烏瓜,ケンタウル祭,区分キメラ,縞模様,真実(ほんとう),接木,融合 賢治は,童話『銀河鉄道の夜』で,「もみ」や「楢」の枝で包まれた街燈,紫色の「ケール」や「アスパラガス」が植えられている空き箱,電…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ケンタウル祭の植物と黄金と紅色で彩られたリンゴ(2)

Key Words:アスパラガス,文学と植物のかかわり,ケンタウル祭,キメラ,ケール,旧約聖書,ポプラ,プラタナス,桜の木,縞模様 賢治は,『銀河鉄道の夜』で,光に透かされた縦の「縞模様」をイメージできるものを「キメラ」やそれに類したものと重ねなが…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ケンタウル祭の植物と黄金と紅色で彩られたリンゴ(1)

Key words: 文学と植物のかかわり,ひのき,いちゐ,ケンタウル祭,楢,人魚,苹果,聖ジョバンニ祭,もみ,縞模様,七夕 これまで『銀河鉄道の夜』の天上世界(夢の中)に登場する植物を中心に解説してきたが,地上にも沢山の植物が登場してくる。特に地上…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-絹で包んだリンゴ-

Keywords : 文学と植物のかかわり,蝦夷(えみし),インディアン,郷愁,キカラスウリ,コロラド高原,新世界交響曲,種山ヶ原 童話『銀河鉄道の夜』には,「顔色」を果実の色で表現している箇所がある。日本人でキリスト教徒らしき少女(かほる)が「新世…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-リンゴと十字架(2)-

Keywords : 文学と植物のかかわり,五千起去,偽果(ぎか),川下(下流),くるみ,苹果の肉,法華経 白鳥の停車場(北十字)やサウザンクロス(南十字)の停車場の近くには「十字架」も立っていて,そこには「十字架」と共にキリスト教をイメージできる「…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-リンゴと十字架(1)-     

Keywords : 文学と植物のかかわり,かまど,苹果(りんご)のあかし,苹果の肉,成長物語 『銀河鉄道の夜』は,主人公のジョバンニとその友人のカムパネルラが夢の中を走る銀河鉄道の列車に乗って白鳥の停車場(北十字)からサウザンクロス(南十字)へ旅す…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-列車の中のリンゴと乳幼児期の記憶-

Keywords : 文学と植物のかかわり,嬰児籠(えじこ),異界,竈(かまど),原風景 『銀河鉄道の夜』(第四次稿)の中で,「リンゴ」という表現は18回登場する。内訳をいうと,「苹果」という漢字表記で15回,「りんご」という平仮名表記で3回使われている…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-仏教と異界への入り口に登場する植物-

Keywords: アスパラガス,文学と植物のかかわり,源氏物語,草木国土悉皆成仏,法華経,カラスウリ,カワラナデシコ,マツ,境木,夢の橋 童話『銀河鉄道の夜』第四次稿は,地上世界はアラビア(イスラム教)風で,天上世界(=死後の世界)はキリスト教的…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-「ほんたうのさいはひ」と瓜に飛びつく人達(2)-

Keywords: アイヌ,バチェラー八重子,文学と植物のかかわり,物質的な豊かさ,同化,義人,違星北斗,熟した苹果のあかし,精神的な豊かさ,知里幸恵,瓜 前報(石井,2019)で,賢治が童話『銀河鉄道の夜』を執筆していた頃,「アイヌ」の「滅びゆく民族」…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-「ほんたうのさいはひ」と瓜に飛びつく人達(1)-

Keywords:アイヌ,文学と植物のかかわり,同化,鴈シャモ,違星北斗,カワラハハコ,知里幸恵,鳥の押し葉,瓜 前報(石井,2019)で,稲作主体の農耕文化と接触する以前の「東北」に在住した狩猟採集民である「古代蝦夷(エミシ)」が,「アイヌ」の人達と…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-アワとジョバンニの故郷(2)-

Keywords: アイヌ,文学と植物のかかわり,エミシ,慈悲心鳥,縄文人,ヒノキとヒバ,いじめ,クジラ,まっくらな巨きなものの正体,サガレン,先住民 前報(石井,2019b)で,活版所の技術者達がジョバンニの粟粒のような活字を「ピンセット」で拾う動作に…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-アワとジョバンニの故郷(1)-

Keywords: アイヌ神謡集,粟,文学と植物のかかわり,文選作業,蝦夷(エミシ), まっくらな巨きなもの,ピパ,ピンセットで活字を拾う,先住民 童話『銀河鉄道の夜』は難解とされているが,この物語に登場する人物を賢治が生きた時代の実在の人物に当ては…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-イチョウと二人の男の子-

Keywords: 文学と植物のかかわり,双子性,ギリシャ神話,白鳥座,イチョウの生殖様式,出自の秘密,チュンセ童子とポウセ童子 童話『銀河鉄道の夜』は,「ほんたうのさいはひ」を求めて壮大な銀河宇宙を旅する物語である。最近,賢治に悲恋に終わった相思相…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-リンドウの花と母への強い思い-

Keywords:文学と植物のかかわり,ニワトコ,乳幼児期,リンドウ,リンゴ,精神分析学,夢判断 『農民芸術概論綱要』の中に「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という有名な語句が記載されている。賢治の作品には「自分の幸せ」よ…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ケヤキのような姿勢の青年(2)-

Keywords:文学と植物のかかわり,移住者,先住民,スギ,タイタニック号遭難, 東北,槻(つき),大和朝廷 前報では「ケヤキ」がなぜ「大和朝廷」を象徴するようになったのかの理由について説明した。本稿では,賢治が「移住者」を象徴する「ケヤキ」を童話…

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』-ケヤキのような姿勢の青年(1)-

Keywords:文学と植物のかかわり,移住者,まっくらな巨きなもの,先住民,スギ,東北,槻(つき),大和朝廷 『銀河鉄道の夜』の初期形第一次稿(1924冬)の出だしに登場するのは「橄欖(かんらん)の森」である。この「橄欖の森」には物語の舞台が北米大陸…